終わってしまっても(智茂)
「お疲れさま、サトシ。」
アニメの収録が終了。
次からはサトシは主人公を務めない。10年以上主人公の座を守ってきても、終わりは実に呆気ないものだった。
花束まみれの元主人公がコチラに向き直る。
満面の笑みに癒されながらも寂しさを感じた。
主人公を降ろされたのに。次に登場する時だって決まってない。もしかしたら永遠に無いかもしれないのに。
僕の心情を悟ってかサトシから会話を切り出す。
「俺さ、アニメでれないのは寂しいけど、実は嬉しいんだ」
………………サトシは遂に発狂してしまったのか。
もしくは性癖に目覚めて放置プレイと悦にいんでいるのか。
心に距離をおいた表情をすると「違うよ、シゲル」と笑い掛けてくる。
じゃあ、どうしてだい?
聞くと、彼は少し真剣になる。本当にどうしたと言うんだ。
「もう旅をしなくて良いんだ。そりゃタケシ達に暫く会えないのは寂しいけど」
旅をしなくて良いんだ?
旅好きの彼が?ポケモンマスターの夢はどうするんだ。
僕は初めてサトシに失望の念を抱いたかもしれない。
眉をしかめたのをサトシはきっと気づいてる。
それでも彼は言葉を続けた。
「コレからは、」
それだけ言って彼は言い淀む。
これ以上イライラを募らせないでくれ。
「サトシ、言いたいことがあるならハッキリ…」
「シゲル!」
言葉を遮るようにサトシが叫ぶ。気圧され次に言う言葉を見失ってしまった。
「ポケモンマスターの夢は捨てないよ。多分また旅に出る。でも、」
「俺はシゲルと居たい。」
「だから、」
「アニメ、寂しいけど嬉しいんだ。シゲルと一緒にいれるから。」
「一緒に暮らそう。シゲル。」
サトシが、僕と?
サトシの顔は恥ずかしさから真っ赤になっているが、きっと僕も真っ赤なんだろう。
次に言う言葉を完全に見失ってしまい、しかし、何か言わなければと口をパクパクさせている僕が呟いた言葉はなんとも意外だった。
それでも心の底から思っている言葉。
「し、仕方ないなぁ。そこまで、言うんなら付き合ってあげるよ。」
「なんなら、旅にもこの僕が同行してあげようか、サートシ君?」
その言葉を聞いたサトシは驚き、そして喜びで顔を染めて
「シゲルぅー、その呼び方やめろよ〜」と言いながら笑顔で抱きついてきた。
こんなならサートシ君が降板しても耐えれる気がしたけど、やっぱムリ。シゲルの誕生日前に終わるとかは死んでも許さん。