ゴシル




「シルバー!」

活気に満ちた声が俺の耳をつんざいた。ああ、煩い。

無視しようとすれば目の前に回り込まれる。そしてしてやったりという表情とご対面する羽目となる。

「逃げようたってそうはいかねーぜ。」

今日こそポケモンは道具じゃないってお前の口から言わせてやんだからなあ?
仕方なく、ボールを構える。ああ、気づいてる。気づいてるさ。ポケモンが道具じゃないってことくらい。
そしてお前が気づいてることも気づいてる。どうしても俺の口から言わせたくてお前が突っかかってくることだって知っている。

バトルの結果なんて解りきっている。
それでも俺はアイツに挑むんだ。
最初はキラキラと何も知らないような目をして鬱陶しいと思った。バトルをしてみれば意外と現実主義の瞳をしていて驚いた。
そして、気づいた。
アイツの瞳は、獲物を見つけ輝いているのだと。それからは狙いを済ましてギラギラしているように見えて俺は逃げ去るようになった。

しばらくしてまた気づいた。

俺はとっくに逃げれなくなっていると。
詰まらない意地を張るのをやめ、お前から聞かれる問いに是と返せばお前は俺に構うのをやめるんだろうか。
俺が好きだと告白すれば側にいてくれるんだろうか。
いや、それはない。きっと軽蔑されるんだろうな。

「ほら、お前のポケモンだってご主人のために必死じゃんか。」

ぼんやりしていると手を取られ、元気の欠片で体力を取り戻したオーダイルの上に置かれる。俺の手をとった手は温かく、冷え症の俺とは似ても似つかない。
初めて触った、いや触れられた肌にじわりと体温が上昇していく。
憎まれ口すら叩けずに頭の中が真っ白になっていく。
不審に思ったのか顔を覗きこまれそうなってハッとした。

「おっ、お前、何勝手に……、触るな!」

思わず強く拒絶してしまう。払った瞬間に後悔が襲う。しかし、普通なら不快になるような扱いにもゴールドは嫌な素振りひとつ見せない。

「なーんだよ、シルちゃん。照れんなって!」
「照れてない!!」

ヘラヘラニコニコ。
楽しげに笑うゴールドが余裕に見えて悔しい。

「くそっ、行くぞ!オーダイル!」

足早に去る俺に背後からまた楽しげな声。

「シルバー!俺は諦めねぇからなー!」


ああ、煩い。
俺の心臓の音も。アイツの声も。




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