ノンケと片思い




「グリーンどうしたの、ソレ。」

 レッドがいかにも怪訝だと言わんばかりの声をあげる。「ソレ」というのはレッドの視線の先、つまりはグリーンの顔にある赤い跡。…なかなか痛そうだ。

「あー、この間お前バトル誘ってきただろ。それで俺は応えた。」

「おう。」

 レッドが話に置いていかれていないか確認の視線を送り、返事を返すとまた手元の作業に目を戻しながら口を開く。

「負けて反省したから今日またバトルするって約束したじゃん。」

「おう。」

 そうだ。彼女のいるグリーンは、ご多忙である為あまりバトルに誘えなくなってしまった。だから、グリーンとのバトルがあまり出来なくて欲求不満になっていたから暫く我慢していたし良いだろうと思いきって誘ったのだ。するとグリーンも打てばなるように返事を返した。そして文字通り直ぐ様飛んできた。

「誘われた時あいつ横にいてよ。」

 あ、これは。
 先の予想がついてしまって返事もせずにやってしまったという顔をするが、グリーンも相槌のないまま話しきろうと決めたらしい。そのまま綺麗な形をした口が音を発していく。

「今日遊ばないかって誘われたけど、レッドと約束って言ったらフラれた。」

「おう…。」

 やっぱり、だ。やってしまった。グリーンは少し所在無さそうに打たれた頬を人差し指でかいた。

「因みに別れの言葉は…。」

「『私とレッド君どっちがあんたの彼女よ!』。」

 ああ、ごめん。グリーン。少し、心のどこか喜んでる自分に喝を入れて内心謝罪する。
 年頃となったグリーンはモテる。それはそれは、好青年に育ったグリーンはジムリーダーになってからアイドルのような人気も得ながら、言い寄る女性も数多。流石オーキドの孫と言うべきか、年上の女性の扱いも慣れているし同年代なんて言うまでもない。若干ドライな性格はしているが、イケメンだとそれも魅力のひとつとなってしまう。それに、残念ながら然り気無い優しさまであるのだ。あと、慣れた相手だと明るい。

「そりゃあ、レッドかあいつか言われたらあいつだけどよ、レッドとの勝負かあいつかって言われたらレッドとの勝負だよな。」

 ああ、嬉しくも悲しいことを言ってくれる。名前も知らない「元」彼女さんへ仄暗い優越感を抱くと共に、バラの蔓で締め上げられるような痛みに襲われる。

「なのに、『そんなにレッド君に会いたいなら好きにしなさいよ』って…もとから好きにしかしてねぇよ。」

 情けないと思いはするが、嫉妬だ。嫉妬が獣となって心中でのたうちまわる。「彼女はグリーンと別れた。」と必死に宥める。そんな心境をお察しできるわけもなくグリーンは、もやもやとする不平不満を発散させていた。おそらく、俺との間柄が「親友」だから。だから、グリーンは俺にそんなことも話してくれるのだ。

「─でも、向こうが俺に付き合えないってんならそういう事だろ。」

 俺がモヤモヤしている間に一頻り話してそこそこには満足したらしい。大体は右から左へと聞き流していたが、グリーンは聞いてないことにも気づいているだろうが気にしない。喋ることで発散したかっただけなのだから。

「彼女とか作らねぇ方がいいのかもな。」

 最後、誤魔化すように笑って伸びをした。本当は、今までの子達のように可愛くって、それでいて俺とのバトルに出掛けていっても動じない度量と余裕のある子はグリーンと付き合いたい子の中にもきっといる。或いは、俺より、俺とのバトルよりも優先したいような子がグリーンの前にきっと現れる。だのに、グリーン本人が彼女なんか作らない方がいいのではと呟くのは、レッドからすればとても、魅力的な事態であった。

「だ、だったら俺にすればいんじゃね?」


 少しの間。グリーンは目を丸くして固まり、「なんじゃそら」と言って笑った。
 緊張して冗談めかした告白は、そのまま冗談として流された。「女がダメなら男に走れってか?幼馴染みにいう台詞かよ」と地味にツボに入ったようでケラケラと笑っている。こちとら、一世一代の告白だったので少しばかり不服ではあるが楽しそうにしてるからまあそれはそれで良いか…。

「確かにレッドなら、『俺と俺とのバトルどっちが大事なのよ!』とは言わねぇだろうな。」

 なかなかお気に召したらしく、くっくと喉を鳴らしながら涙目になっている。
 そりゃそうだ。結局ふたりしてバトルが好きで、バトルは自分を形成する大部分だ。そこに嫉妬するっていうのは元も子もない。それに俺がグリーンを嫌う筈がないのだ。まあ、殴り合いはするかもしれないが。

「でもまあ、」

 不意に空を眺める。初夏の日差しに眩しそうに目を細めた。それだけで様になるんだから、本当俺の幼馴染みはズルい。

「それもアリかもな。」

 彼の幼馴染みは突然いたずらっ子の様に笑い爆弾を落としてくれた。
 えっと、これは、つまり、

 脈アリって事なんでしょうか。
 真偽を確かめようにも言った本人は既に臨戦態勢に切り替わっている。
 このバトルに勝てたら、思いきって聞いてみようか。いっそのこと告白してみようか。
 そう思うだけで、

 今からするバトルが聖戦に感じられた。




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