覆水は染み渡る。


グリーンが入院したときき、シロガネから急いで下山する。ゴールドがリベンジに来てもどんまいとしか言いようがない。シルバーがそうなれば、僕の気持ちも解るよ。
回りからは「取り乱してなくて良かった」というような雰囲気が伝わってきたが、僕が下山しただけ十分異常だと彼等は気付いていない。
病室にたどり着き、ノックをする。怖いからだ。入るのに勇気がいった。だって僕だってロケット団に突っ込むのは子供だからなんだよ。そして子供だから怖いんだ。
しかし、恐怖とは裏腹に中からは「入れよ。」と言う声が聞こえてきた。彼の声だ。事故で気絶したと聞いたので彼自身の声を聞いただけで酷く安堵した。
後ろから「あまり動揺しないであげて」と声をかけられた。なんで。
平静を取り戻した僕は扉をあけ、ベッドに座っている彼に目を向ける。
口の横に絆創膏、頬には湿布と意外と怪我は大したことがない。
「よかった。」
そういうと彼は、笑顔で「まあ、座れよ」といい、ベッドの上で胡座をかいたまま、椅子を引き寄せてくれた。
「死んだかとおもったよ、グリーン。」
彼の顔が歪んだ。明らかに、名前を呼ばれた時にだ。
「レッド、話があるんだが、ショックを受けないで欲しい。」
実は、目の前にいるのは幽霊です。みたいな、オチ?事故の癖に不治の病?次の言葉が紡がれるのを僕が静かにして待っていると、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
その言葉はあまりにも酷で、レッドの脳内を毒のようにジワジワと犯していった。
「だって、今僕の名前…」
「ジョーイさんが今から仲の良かったレッドという同年代の少年が見舞いに来ると言ってたから解っただけだ。」
困ったな、と浮かべる表情や、仕草は完璧にグリーンそのもので、ああ、癖って記憶無くなっても残るんだなと客観的に見ている自分がいる。
それと同時に癖と同じくらい一緒に君と居た筈なのになんで僕は忘れられてるの?と彼の癖にすら嫉妬し、動揺する自分がいた。

でも、グリーンへの気持ちが変わる訳じゃないよ。
愛しさ余ってなんてないから。溢れたら更に大きい器を用意すれば良いだけだから。


まあ、覆水は盆にかえらないけど。



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