アミノグリコシド





 陰鬱だった。

 ジムの処理仕事が好きなわけではないが、この仕事が終わらなければいいと今日ばかりは思わずにはいられなかった。刻一刻と迫る時刻。このあとジムを閉めてしまえばヤマブキのホテルに行かなければならない。最悪のお達しだ。
 なんでも、多大な資金援助をリーグにしている実業家の男が俺と会食をしたいと申し出たそうだ。俺に直接来れば却下してやれたものの、ご丁寧にリーグを通して申請してきたために無視もできない。この男は、半年ほど前から資金援助を始めたようで、要するに成金だ。事業に成功したため生活に欠かせないポケモンとの一切を取り仕切るリーグとパイプを持ち、安定した地盤を欲しているのだろう。そしてリーグ関係者の中でも、家系としても俺はカッコウのエサってやつだ。オーキド博士の孫で自身もセキエイリーグ最強のジムリーダー?はっ、笑える。そりゃ変な奴もよって来る。
 今回の奴は、どうやらトキワジム単体にも資金援助をしたいと申し出ているようで、その話をきくのが今日の会食の内容だった。

 そう、会食を申し込まれたのだ。
 思い出しただけで萎えていく気持ちに、鞭を打ち処理仕事に取り組む。援助というのは大変リーグとしてはありがたい物なので、彼とのパイプがなくなるのはおそらく嫌なのだろう。
 丁重にお断りして早々に帰ろう、断りに使う文句のレパートリーを考えつつ、紙面に向き合った。




 ついに来てしまったと後悔する。10分前にこちらはついていたというのに、向こうは5分ほど遅れてやってきた。向こうが下手を踏んでくれる分断るこじつけでもなんでも口実にできるが、寒い中わざわざ遠出してやってるんだから勘弁願いたい。10分遅刻なら帰ろうとしていたのにきやがって。
 満面の笑みでやってきた男はいかにも成金らしいスタイルで、正直今まで付き合ってきた品のある男性女性とは釣り合わなかった。いかに彼らが上品であったかを思い知る。金の指輪にネックレス、だらしなく開いたシャツからは日に焼けた肌がのぞいている、…胸毛が不潔な印象だな。ズボンに乗っている贅肉も同じ印象を与えてくる。要するに、印象がとても悪いわけだが、握手する気もなかったのに、開いていた手を取られて無理やり握手された時点で尚更印象は降下していく。いや、リーグの事務課も困ったような顔で俺に謝りながら「お願い」してきたあたり既に察していたし、印象は最悪だったわけだが、今は個人的な見解としてどんどん印象が悪いほうに進んで行っている。

 「グリーンちゃんってさあ、テーブルマナーまで精通してるんだね?今は、もっと気にしないんでいいんだよ。」

「いつも同じように食事してるので。お気になさらず。」

 レッドと食べるとかならまだしも、気の許せない人間と一緒に食べているのだ。弱みを見せるはずないだろう。そりゃがっつきたいときだってあるが、今はその時ではない。

 食事しながら男が話した今回の話は、トキワジムへの資金援助、改修工事などの負担を請け負うという話だった。リーグにも他地方よりも研究成果・知名度が上がるようなら更なる多大な資金を援助するという。借りでも作りたいのか媚でも売りたいのか、こちら側へのメリットが大きすぎる。それで後々搾取していこうという考えなのか。ああ、そういう話はリーグの経理と話せで帰ればいいのか。なるほど。

「まあ、詳しい話は部屋で。あまり、こういうのは人のいるところでするものでもないしね。」

 食事も終了し、辞退しようとしたところ背中を押されて誘導される。少し踏ん張ったが、流石に図体のでかいだけある。踏ん張りむなしく力強さと遠慮のなさに前につんのめった挙句中身を戻しそうになった。
 
 通されたのは最上階の夜景がとてもきれいな部屋だった。なんか、このおっさんAVとかでバスローブ着てこういうシチュエーションに登場しそうだな。AVなんて見たことないから知らないが。断じて見たことはない。イメージだ、イメージ。

「……?」

 少しの眩暈にふらつく。頭を振ってもくらくらとしたものは解消されずにまとわりつく。

「グリーンちゃん?大丈夫?」

 男が肩に手を置いてきた。なんでもないと、手を払おうと振り返った瞬間ぐらりと視界が回る。地面が空にあり、空は地面にあるような感覚に更に目が回る。体から力が抜け、崩れた体を男に支えられる羽目となる。
 ちょっと、なんてものではない。激しく視界は周り脈は落ち着かない、自然と荒くなる息をするにも、胃の中のものが出てきそうで正直今自分が誰に支えられているかなんて考えている場合ではなかった。自分の足で立たなければならないのに、その余裕が無い。気づけば耳鳴りがうるさく、いきなりの体調不良にグリーン自身戸惑っている、が。男は手際よくグリーンをベッドに横たえさせ、羽織っていたアウターの前を開けた。
 …案外、しっかりした男なのかと気を許そうとした瞬間奴からとんでもない言葉が発せられた。

「今耳にちょっと異常出てるくらいだから、大丈夫。一定期間で症状は治まるから。」

 なんでこいつはそんな事わかるんだ。
 ぐらぐらする思考に疑問が浮かぶタイミングとほぼ同時に、男が自身に覆いかぶさるようにし頬を撫でてきた。

「はっ…ぁ……?」

 気持ち悪さに寒気がしていると、服の前を広げられ、胸や腰を舐るように触られる。やばい、AVの男みたいって言ったけど、マジでこいつそういう奴だった。怖気がして、抵抗しようと腕をあげるが、力が入りきらず抵抗にすらならない。

「リーグで見たときにさ、グリーンちゃんがあまりにも可愛いから、欲しいって思っちゃったんだよね…」

 男が視線を撫でまわされている腰に向けたまま呟くように言い放つ。こいつ、神経大丈夫か、と疑ってしまう。人間相手に、しかも同性にだ。欲しいって思考に至るのおかしいだろう。完全に物のような会う使いを受けている。お前のステータスになるために俺は存在しているわけじゃない。

「んぁ……うぅ…」

 叫びたかったが、気持ち悪さに口からはうめき声が漏れるだけだった。しかし、男はその声を嬌声にとったらしく、「もっとよくしてあげるから」とのたまった。どうやら、どこまでも自分しか見えていない人間らしい。そんな男に、こんな姿にされていることがグリーンには屈辱でならなかった。
 早急にズボンまで抵抗できないまま下着ごと下され、恥部を明かりの下に晒される。

「や…めぇ…。」

 やめろ、そういいたかったのに、眩暈による気持ち悪さで言葉も碌に言えやしない。男はまたも都合のいいように解釈したらしく、「ローションあるから大丈夫だよ。」なんて返してくる。それは、一番よろしくない返事だった。つまり、ローションが必要となる行為をするつもりということで、グリーンからすればもっとも回避したくてしょうがない事態である。
 股座にローションを塗りたくられ、首をゆるゆると振って拒絶するもそもそもこの男の中ではグリーンの意思など価値がないため、歯牙にもかけられないまま行為の準備は進んでいく。
 満足したのか、てらてらとローションが反射しててかる男の太い指がグリーンのすぼみにあてがわれた。もはや、視界がまったくきかず、グリーン自身状況が見えていないが、男の肥えた贅肉がグリーンの胃を上から圧迫し吐き気を促してくるため、なおも男に覆いかぶされていることは理解していた。

「っ…、ふっ…ぅうっ…!!」

 すべりがよくなったすぼみに遂に男の指が侵入した。男の贅肉で既に催されていた吐き気が下から押し上げるように侵入してきたおかげで本格的に胃の内容物が逆流したのを必死に零すまいととどまらせるのに必死でグリーンはもとより無い抵抗を更になくすしかなかった。

 中で蠢く指が気持ち悪い。無理やり押し入り無遠慮に蹂躙していくさまは、男をそのまま体現しておりグリーンは内心嗤う。このような男の横暴を許してしまうのが、許せなかった。
 男が指を勢いよく中から抜き去る。いくらローションを塗りたくっているとはいえ、勢いのよさに腸壁が引きずられ、一層体調は悪化していく。

 そしていくらか時を置き、グリーンがようやく一息ついたときにあてがわれた男の物で貫かれることで、グリーンの体力は底をつき、意識を手放した。



 これからしばらく昏睡した状態で犯されることも、監禁され、男の性欲を処理するための道具となり下がることも、グリーンは知らない。



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