世界中の人と(レグリ+ヤスタカ)
とある画家は、子供時代に世界中の人達と友達になれると思っていたらしい。
俺だってそうだ。恐らく、俺はその画家よりも、
鈍感で、気付かなかった。
俺もそうだった。
世界中の人達と友達になれると、思って「いた」。
世界を、俺を取り囲む環境と狭義な捉え方をしたところで、考えは変わらない。
人間関係というのはひどく脆い。
共通の趣味で知り合った仲でも片方が趣味への興味が薄れれば、そこから関係は風化していくし、そもそも趣味が合わない人だっている。
同じコミュニティにいたって性格が合わないことだってある。性格が合わないからって気が合わないとも限らないが、とかく一度ケンカでもすればそれきりの関係だって、この世にはある。勘違いにしろお菓子の取り合いにしろ、たったそれだけで崩れる関係だってあるんだ。
素直に物事を話せないグリーンは何かと勘違いされやすい。そして、仲違いもしやすかった。
その一人が、幼馴染みである。
3年たった今では最早発端すら思い出せない程、しょうもない理由で喧嘩した。
ケンカ別れだった。10年の幼なじみという強固にすら思える関係にしては実に呆気ない幕切れであった。
最初は憤慨して「レッドなんか知るか!」と宣っていたものだが、仲直りの機会が永遠に失われたと理解した時は、何もかもが嫌になった。
そして気付いた。
自分は、世界中の誰とでも友達になれると思っていて、実際遂行しようとしていたことに。
気付いてからは何となく体が重かった。
人と関わるのが面倒になった。
独りでいい。そう思うようになった。
しかし、どういう事か。そうして人間関係を真剣に構築することを投げ出したグリーンと、関わろうとする人間がいる。いくら「必要がない」と言っても「俺がしたいから」「私がしたいから」と聞かない奴等が現れだしたではないか。
訳が解らなかった。
俺は、かつて協調しようとしたときに非協力的な態度をとった奴等と同じようになっている。その自覚はある、そして彼等のように頑として協力的な態度をとろうとしていないのに、それなのに、彼らは一向にめげない。俺が諦めなかったように、諦めないつもりなのか。諦めなければどうにかなると思っているのか。待っているのは疲弊と決裂なのに。
「俺は、オマエラに協力もしなければ、関わろうともしねーぞ。」
嬉しいとでも言うように、俺がいる事務室の窓を綺麗に磨きあげる男に言った。自他共に認める小手調べ担当の、ヤスタカだ。媚び売られても自己ピーアールされても無下にするぞと確認するように言ったのだが、それでもヤスタカは嬉しそうにしたままだった。
「ジムにいさせてくれるだけでいいですよ。後は勝手に仕事しますから。」
「意味わかんね。」
話をするのも放り出して、手元の資料に目を戻した時だ。男は居心地の悪くなるような優しい瞳で俺から目を離さずに言った。
「あんたは、結局優しいから放っておくなんて出来やしませんよ。」
侮られた。
その一言に収まる台詞を男が吐いたが為にグリーンはヤスタカを睨み付けたのだが、男は尚更優しくて気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「だってあんた、今も俺の存在を気にしてくれてる。」
「グリーンさんが、なんでそんなに距離を置きたがるようになったのかは、俺も知りませんけどね。」なんて悠長に宣う男の言葉にグリーンは何も返せない。ヤスタカの言う通りであった。結局、関わろうとしないと宣言することで俺は他人と関わっていた。バカらしい。
けど、だけど、
「グリーン!!!!」
事務室を出た、すぐ隣にある専用通路から騒がしい呼び声が耳をつんざいた。
「おい、居るんだろ!?お前の潜伏場所はナナミ姉ちゃんに聞いたんだ、隠れても無駄だ!おら、出てこい!!!!!!」
ヤスタカが怪訝な顔で俺の意思を伺ってくる。俺は、こんな声の奴を知らない。ただ、この口調はひどく馴染みの深いもので、同時に信じがたいものであった。
なぜ、どうして、
頭は考えるのをやめたように意味の無い同じ問答を繰り返している。しかし、体はまるで条件反射のように駆け出していた。
「───!」
世界中の人と