曖昧逃避行



曖昧逃避行



風邪を引いた。
季節の変わり目、これから順調に暖かくなっていくんだろうと調子をこいてたらこの様だ。
今年はシンオウで今月に入ってからも降雪が確認されてるし、ホウエンの知人も寒い寒いと嘆いていた。おかしいな。俺は、以前年は違うが同じ月。ホウエンに行ったときに暑さのあまり目眩を覚えると共に倒れそうになった記憶があるんだが。シンオウだってそうだ、幼少の頃シンオウに行けば雪で遊べると勇んでいったのに雪は既にマッサラだった。どちらも春休みの期間にいったから覚えている。

おかしいな、おかしいな、
俺の記憶違いかな。

………おかしいな、俺の記憶違いかな。
ぼうっとしている間に書類の山が増えているように見えるな。嵩も増してないか。
書類ってかげぶんしん覚えたっけ?山が二つになったと思ったら、四つになった。書類の山がぐるぐる回る。

「リーダー、生きてますか〜…ぎゃあ!?」

ヤスタカのみっともない声が脳内で響いて視界が回転した。
そこから意識は途絶えてないのに、ぐるぐるぐるぐる………気分が悪いまま唸ってたら気付けば仮設ベッドの上にいた。まだぐるぐるしてる気持ち悪い。

「全く、びっくりしましたよ。人間って倒れるとき本当に白目むくんですね。」

白湯を差し出しながらヤスタカがぼやく。白目をむくとはなんたる失態だ。頭の上に腕を置くと、重みが心地よかった。
まだ起き上がれそうにないため、ヤスタカがいれてくれた白湯は自然、むだになる。俺が受け取らないから察したのだろう。盆ごと机に置いた。
軽い謝罪を口にしようとヤスタカの方へ首を動かすとそれは目に入った。
…なんとか対応できるようになったらこれである。招かれざる来訪者が窓の向こうに見え、内心舌打ちをかます。

「あー、ヤスタカ。お前、絶対挑戦者を通すな。総力あげて。」

気付かないヤスタカを自然に事務室から追い出す。ヤスタカは少し不思議そうにはしたが言及せずに素直にフィールドに戻っていった。
窓に向かって、右を指で示す。アイツは頷いて、窓から見える風景から消えた。
暫くして事務室の扉が開く。

「ざまあないな。」

最悪なセリフと共にやって来たのは、我が幼馴染みであるリビングレジェンドことレッドである。
出来ればこんな醜態、レッドには見せたくなかったが窓にへばりつかれていたんじゃ仕方ない。もう見られているのだからと大人しく室内に招いた。

「気付かなかったらいつまでいる気だったんだ。」

「気付くだろ。」

凄い自信だ。以前だって逃走図ろうとしたら窓にコイツがいたのを見つけただけだし、その前だって冷蔵庫の扉閉めて振り替えったらいたのをたまたま見つけただけだし、今回だってそうだ。ベッドからヤスタカを見ようとして、ヤスタカの向こうに見つけたのだ。いや待て、結局ちゃんと見つけてるじゃないか。そりゃあコイツが自信満々になるわけだ。

「で、何か用。」

話を逸らして、コイツが来た理由をきく。幼馴染みが会うのに理由がいるかよって言われればそれまでだが、一応コイツは用もなく来たりするほど暇を持て余してはいない。
あぁそうそうと、拳で掌を叩く素振りを見せた。

「年度始めだし、そろそろ倒れている頃かと思って。」

「帰れ!!!!!!」

コイツ最悪だ!ぷぷーとバカにしたような笑い方をした目の前の下衆に堪らず叫ぶ。

「……!!」

目の前がぐらりと揺れる。どうも視覚と平衡感覚のタイミングが合わない。気持ち悪さに目眩がする。
頭が麻痺したようにぼーっとする。
視界がうまく認識出来ない。
気持ち悪さに頭に手をやり唸っているとぐっと持ち上がる感覚がした。視界が遅れて、いつのまにか近づいていたレッドに毛布ごと持ち上げられた事を伝えてくる。しかし、不服きわまりない。抵抗しようとしたが、腕を持ち上げるのですら億劫に感じる。恥ずかしがるなんて最早思い付かなかった。ただぼんやりとレッドなんかに、と思うのが限界。

「たまには逃げ出したって良いだろ。」

どこに行くんだろう、ぼんやり考えていると口には出していないのに察したのかレッドが小さく呟く。
いやいや、良くないだろ。とは思いつつも、レッドの安定感のある腕の中で自然と目蓋が落ちていく。

風が頬を凪ぐ。
毛布には熱が篭り、快適な温度のまま風が滑っていく。
自然と同化したような時の流れに、呼吸がゆっくりと深くなる。
緊張していた何かが解れていくようだった。


いつの間にか寝入っていたらしい。
目を覚ますと日が沈み薄暗くなったベッドで寝ていた。
意識も明瞭だし、体も意思についてくる。不調からだいぶ回復したようだ。睡眠の力は偉大である。
机の上には冷めた白湯が放置されていた。どうやら、ヤスタカは戻ってきていないらしい。
寝る前にレッドが来た気がするし、どこかに連れていかれたように思うのだがアレは夢だったのだろうか。
レッドの現れた窓を見ても、カーテン越しに仄かな明かりを通すだけで何の確認にもならなかった。

書類の嵩も、増えているなんて事はない。倒れる前と変わらずに厳かに存在していた。


END


ちらっとあとがき
だーいぶ、遅くなりましたが以前タイトル交換をさせて頂いたものです。続き書こうと読み直したらなんだか終わりが好きな感じだったのでそのまま中で読みづらいと感じたところだけ直してあげました。
タイトルは日頃からお世話になっている蒼子姉さんから。
タイトルありがとうございました、良かったらまたしよう!
やっぱり自分の考えるタイトルとは違って、うんうん考えましたがそのぶん楽しかったですありがとうございました。




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