温かい夢/SP


ああ、なんて厄日なんだ。
最近は悪夢を見なかったのに………。

昨日どしゃ降りでそこら辺にあった洞窟に入って休んだのはいいものの、
そのまま寝てしまったらしい。体の節々が痛む。
体を捩ると雨に濡れた衣服が肌に不快な感覚を与える。
いや、自身から大量に分泌された汗も手伝っているらしい。

…………それにしてもダルい。
寝起きなせいか頭はぼーっとするし、妙に暑い。
いや、暑いというより熱い。放出しきれない熱のやり場に困る。
だが、たかだかそんな理由で任務に穴を空けるのは目的から自身を遠ざけるだけだ。
重い体を起こし雨が止んでいるであろう外に向かって歩を進めた。その時だ。
視界が突如斜めに歪んでいき、纏っている服が紫に見える。
おかしい、服の彩度はあがっているのに周りはどんどん灰色に塗りつぶされていく。
異常だと認識したときには体の中心から迫ってくるような吐き気と目眩にまともに立っていられなかった。
盛大ではなかったが不振だったのだろう、俺の倒れ込む音に外で見張りをしてくれていたらしいニューラが慌てて近寄ってきた。
とりあえず、ワタルさんに判断を仰がなくては。そう重い頭痛がガンガンする中ポケギアを取り出す。
ポケギアは圏外。
舌打ちをしてニューラをみやる。どうしようかと対処に困ってオロオロしている。
……お前だけでも任務を遂行させろ。なんて無理だよな。
諦めて岩の屋根を倒れたままみる。
地面はひんやりしていて気持ち良かった。
そのまま重たくなってきた瞼を閉じる。
自分のぜぇぜぇという息遣いだけが洞窟に響いていた。


主人が寝てしまった。遠慮がちに触った額はとても熱かった。普段めったに触らないけれど、異常と判断するには充分すぎる。
ああ、起こすべきではないけれど、心配だ。
さっきも彼は寝ていたが久しぶりに酷く魘されていた。
そんなに寝返りを打ってはアザができてしまう。それほど苦しいのか。現実の痛みより夢にみる苦しみの方が大きいのは彼の幼少時代のせいだ。
主人の投げ出されたポケギアをみる。彼より入り口近くにあるソレは電波を受信したらしくわずかながらアンテナが立っていた。
ふと、主人と同世代の彼の顔が頭を過る。
昨日の夜戦ったばかりだ。近くにいるはず。
主人のモンスターボールに手を伸ばし、同胞をだす。彼に見張りを頼み私は外に駆け出した。


やめろ。来るな。いやだ。戻りたくない。父さん………。
迫ってくる手を、闇を懸命に払いながら走る。
どこかで夢だという認識もあるが、今捕まったら一生逃れられないという強迫観念の方がシルバーの中では大きかった。
すでにシルバーの中でトラウマと化したソレに囚われている認識は無論ない。
闇に囲まれ、無数の手がシルバーに伸びる。
ああ、誰か!!
必死に辺りを見渡すが自分を捕えんとする手しか見えない。いよいよ恐怖と絶望にがんじがらめにされかけた時、
「………ルバー…シルバー!」
遠くで誰かに呼ばれる声を聞いた。
忘れかけていた優しい温かい何か。
声に応えようと懸命に温かい何かに手を伸ばすと頬に温かいものが触れた。

ごーるど…?


温かいものの名前を呼んだ。
「ゴールド………」

「シルバー!」
水中から出たかのように今度はハッキリと聞こえた。
瞼をあげると真っ先に彼の顔、後ろにはいつのまにか出ている自分のオーダイルとニューラ、そして彼の相棒のバクたろうがいる。

体は相変わらず気だるさがあるが、不快感は体を動かしても来なかった。
上体を起こすと自分のフリースが脱がされていたのと、やはり体が痛いのがわかった。

「なんで………」
いろんな事への疑問を一言に詰め込む。
温かいものがまた頬に触れた。
ゴールドの手には透明な液体がついていた。
「いや、ポケセンにいたらよ、ニューラが血相変えてくっから………お前魘されだすし。」

大丈夫か?と心配する彼の手にはウェットタオルが握られていた。
温かい気持ちで満たされる。その気持ちを享受しているとまた涙が頬を伝う。
辛さからか、安堵からか、別の理由からかは解らない。
だが、確かに水滴はシルバーの頬に道筋を描いた。
あわてだす彼に、「ダメだ。」と告げ、温かさを感じたくてもたれかかる。

更に慌てる彼がおかしくてクスリと笑う。
すると彼は「シルバー?」と言ってくる彼の言葉を目を閉じたまま無視してやった。
しばらくするとゴールドが自分の額にてをあてる。

「あつっ!」

そう言った彼の言葉を最後に俺は温かい中で眠りについた。


初めてかもしれない優しい夢が見れた



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