vampire
雪が古城に降り積もる。月の光が反射して青白く光る。
ほとりに広がる湖畔も凍る零下。
君の手は冷たい。
暖炉に焚かれない火も最早不自然ではなかった。
死は俺を殺してくれない。
嗚呼、俺が君のヴァンパイアであれたらどれほど良かったか!
「なあレッド、レッド、」
爽やかで、今にも消え入ってしまいそうな、そんな笑顔を携えて美しいヴァンパイアは音もなく現れた。
そのまま、ナイフを俺の手に握らせる。
「はやく俺を殺してくれよ?」
笑顔のままで、
彼は爽やかに、俺の手を使って自らを突き刺した。俺の手なんかもはや飾りだ。
息を白く吐く。
くり貫かれた心臓の方に絨毯が染まり、やがて肥大していく。
その血は一体誰のものなのか。どうせ、そこらの安っぽい女の血なんだろう。
本当に、俺がお前のヴァンパイアだったなら良かったのに!
目の前でいい笑顔のままこの凍てついた湖上の主は死んでいった。
恐らく、また月が昇れば俺に「殺して」とせがんでくるのだろう。出来ないと知りながら。
俺は、死ぬ覚悟はある。
ただ、死に行く勇気がないのが酷く滑稽だ。
ただ、彼を独りにする気も生かす気もないから。だから、コイツが俺を山に連れてってくれれば良いのに。彼はそうしない。
俺ならお前の灰を胃に収めたいと思えるのに。
ほら、月が沈む。陽が昇る。
一緒に零下の光を浴びようぜ。
そうして、お前は灰になって、俺がその灰を飲み干す。
「レッド、」
ほら、また月が昇ってきた。
お前は嬉しそうだ。凶器のような笑顔が俺の統合されていた心をバラバラにしていく。
「なあ、グリーン。」
「ん?」
「お前のヴァンパイアだったら、俺の、死は待ってくれたのかな。」
一瞬呆けたグリーンは、次には綻ぶような笑顔を満開にして嘲った。
「なわけねーだろ、バーカ。」
それもそうだ、
俺は俺を嘲って今日も彼の心の臓に狂喜を注した。