美大生グリーン10
「そんなにショック?」
今まで散々似たような事してきたくせに。
そう咎めるかのように聞こえたが、返事をする気力はなかった。
別に、ショックではなかった。
ただ、なんでコイツなんだろう。
そう思った。
自分でも何でそう思ったのかは解らない。
ただ一瞬でオーバーヒートした頭をとりあえず冷やそうと一人先に出た。
そうして何だか思い詰めたような表情で帰ってきたレッドを見る前に答えの一部を見つけてしまった。
何でコイツなんだろう。
その疑問に「ならば誰なら良かったんだ。」
そう思ったときに頭の中を霞めた存在は間違いなく同居している相手だった。
レッドは好きだ。いつまでも俺を捨てないでくれる。いつも本質を変えずに居てくれる。
だから、俺もアイツの前で変わらずにいれたのに、
今、目の前にいるレッドは今迄のレッドではなかった。
「そういえば、絵は進んだ?」
「あんまり。」
「…珍しいね。まあ、仕方ないか」
気持ち悪い!
なんだよ、今までは二人とも腹の底が見えてるようで、言葉なんて戯れだったのに。
今は二人とも解ってない。相手の事を何一つ解ってない。レッドの感情が解らないし、俺の感情もレッドは解ってない。
腹の探りあいをしているような当たり障りのない会話が気持ち悪い。
会話が静かに沈澱していく。
会話が溺れた後は只の沈黙だった。
家でふたりして無言で、俺は探りあいをしたくないから、レッドはまだ何か思い詰めたような顔をしてるから多分ソレ。
「グリーン、」
「あ?」
夕飯を終えて席を立とうとした時に呼び止められた。
目を泳がせて、何かを言おうか迷ってる。
今日のレッドは嫌いだが、いつも俺が振り回してばかりで、俺もこの雰囲気が気にくわなかった。だから、今回は、俺が聞いてやる側に回ろうと思った。
「あー、やっぱなんでもない。」
「何だそりゃ」
気が抜けた。
せっかくこっちが珍しく聞いてやろうって態度になった途端のコレだ。
ガチャンと音を立ててテーブルに持っていた食器を置き、どかりとレッドの前に座り直す。
仕方ないじゃないか、レッドだって人間。迷うときくらいある。今まで支えてくれたレッドなんだから、レッドがぐらついた時は俺が支えれば良いだけなんだ。
「いいか?レッド。正直俺は今辟易している!なぜ?お前との距離感が掴めないからだ!」
「はあ…」
呆気にとられた顔で気のない返事を返される。
まあ、いきなり俺もいつものテンションになるのが原因なんだろうが。
「お前がゴールドに何言われたか知らないけど、悩んでんなら俺に言えよ。」
力になれっかはわかんねーけど、聞く位は出来るから。
聞いていたレッドはきょとんとした表情の後、ありがとうと笑ってくれた。その笑顔はレッドのいつもの笑顔で安心する。
「まあ、グリーンで悩んでるんだけどね。」
おっと、まさか俺関係だとは。
クスクスと小さく笑ったままレッドが溢した。
俺が驚くことなんて然して面白くないだろうにその様子を見たレッドは笑いを延長させた。
しばらくレッドの面白くない笑いが治まるのを待っていたが、レッドが深呼吸をする事で終了したらしい。
「まあいいや、俺ゴールドにさ、臆病だって言われたんだ。」
「はあ、」
「俺の負けず嫌いなしょうもない性格知ってるよね?だからもう言っちゃおうかなって。」
「………。」
俺関係の悩みで、ゴールドに臆病だと言われた。そして臆病だと言われたのが悔しくて言う覚悟を決めた?
どうにも、これは、
まさか、
レッドが一呼吸置いて、真っ直ぐな瞳を向けてきた。
俺をいつも支えてくれた、大好きな、澄んだ瞳。
俺、ずっとグリーンが好きだ。