美大生グリーン7



まさか、こんなにも早く彼が来るなんて思ってもなかった。

口と鼻を抑えた状態でイくと気絶すると言うのは本当だったようだ。
目蓋を濡らしている滴を拭い、風呂場へ連れていく。

三年前を思い出す。
流石に、入学式や最初の朝会をサボってはまずいし、ダチ公だって出来やしない。それは勘弁だった。
だから出ていたのだが生徒会長が欠席した時、一度だけ副会長が壇上にたった。
その時は、明らかに当たり障りのないセリフ、内容だったが格段に生徒会長よりも話がうまかった。なんせ、普段聞いていられずに寝てしまう俺が起きていた。そして内容も高校生活の間に忘れることはなかった。
若干見下したような口調に聞こえたらしい、若干柄の悪いクラスメートがウザくね?と言ってきて、漸く俺は顔をあげた。
「ああいうのシメテやった方がいいって」なんて、成りヤンらしくて馬鹿馬鹿しい。自分同様新入生のくせに、と心の中で呟いた。
そして、顔をあげて理解する。

既にやられたんだな。

俺だって中学の時から目付きが悪いだので喧嘩を売られて教師に目をつけられるような人生だったから解る。傷つけられた、虐げられた人間がどんな表情をするか位。毎回、あの表情を見て傷付けたと知る。俺の大嫌いな表情。

緊張している風ではなく、どちらかと言えば恐怖しているような。恐らく、手元の紙は壇上に立つ筈だった生徒会長のカンペだろう、だが彼は一切紙を見ていなかった。生徒すら見ていなかった。教師も、ただ、僅かに視線は揺らぎ、空を眺めていた。
前に立つような奴が俺の目の前にあるような表情をするなんて、思ってなくて、俺が傷付けたような、

傷付けてきた奴等の表情が蘇る。
それでも、うんざりするほど聞きやすいスピーチは頭の中に滑り込んでいった。


スピーチ以来、無性に彼が気になって生徒会に入った知人の手伝いもして、どんどん知っていった。そして気付いた。グリーン先輩を俺と同様に見ている視線に。

なぜ、彼が傷付いたのか。なぜ、彼が傷つかねばならなかったのか。

レッド先輩は、親しげにグリーン先輩と話していたが、グリーン先輩が会話を終え離れていくと決まったように悲しげな表情を浮かべた。

「えっと、ゴールドだっけ、いつも手伝ってくれてるよね。生徒会。今日も?」

「あ、そんなとこッス」

目があったと思ったら話しかけられて一瞬言葉がつまる。話しかけた本人も「ありがとう」と礼を述べた後は会話に詰まっていた。
もうこの際だ、聞いてしまえ。

「ちょっと話しません?俺、教師から印象良くなくて入れなかったんすけど、生徒会興味あるンスよ。」

そういえば、レッド先輩は快諾してくれた。

「グリーン先輩って、生徒会長よりも仕事出来ますよね。」

「あぁ、だから会長や取り巻きがあんま良く思ってなくてね、仕事どうせ出来るんだろ?ってグリーンにすぐ押し付けんの。」

嫌になるよ、とファミレスで愚痴大会を繰り広げるようにレッド先輩は口を滑らせてくれた。
グリーン先輩は思っていたよりもひどく、レッド先輩に内緒にしているつもりらしいが、睡眠薬を飲まないと眠れなくなるほどだったらしい。そして寝れないから仕事や勉強をしたりして度々体調を悪くしていたりと。
本当に心配しているらしい、保護者かと疑いたくなるまでの口振り。そこからなんとなく察してしまった。レッドのグリーンへの感情の名を、

自分のグリーンへの感情が何なのかを。


タオルを濡らしてグリーンの自身の精液で汚れてしまった下肢を綺麗に拭き取っていく。
どうせこの後はレッド先輩がなんとかするだろうと早々に切り上げた。だってレッド先輩の相手をするのも骨が折れるだろうが、自身の処理をはやくしてしまいたかった。モヤモヤする、本当はグリーン先輩に入れてしまいたい。なのに、我慢している俺超紳士。

グリーン先輩を姫抱きにして扉の前にたつ。緊張しかない。
絶対に怒ってる、いや怒ってない訳無いけど、絶対ただじゃ済まない。
そう理解すると、もう覚悟は出来てたから開けるだけ、そう扉を開けるだけなんだ。うん。

しばらく、悩んだがもう腹をくくるしかなかった。第一遅くなった分だけ後が怖いのだ。

ええい、南無三!!!!


扉を少し開けると同時に勢い良く無理矢理開けられたかと思えば、次の瞬間拳が目の前に迫っていた。
反射的に仰け反って避ける。避けて後悔した。今当たったフリして気絶の真似すればよかった。
音を裂くようなパンチが止まる。

「おかしいな、なんでゴールドがここにいるんだ?」
「すいません…」

「俺、グリーンが悪漢に襲われてるから駆け付けたんだけどな?」
「すいません」

「悪漢が見当たらないんだけど、目の前にいる男のことかな」
「すいませんっ!!!!!!」

にじり寄ってくるレッドに合わせて後ずさる。
多分、俺が抱いているグリーンすら目に入ってない。もう、疑問系なのは文章上の語尾だけだ。他はなにも疑問にすら思ってない。第一目が笑ってないのだ。

「俺グリーン先輩のこと犯してないッス!」

「へぇ」

「ほら、グリーン先輩!!!!」

そこでやっと詰め寄る足が止まる。捧げるかのように差し出したグリーンを抱いて、いつの間にか横にまで来てしまっていたらしい、ベッドにそっと横たえさせる。
横たえ、させる?

「襲ってたよね?」
「襲いましたけど、犯してないッス!自分の処理すらしてないんすよ!?」

確認するような声色に咄嗟に返す。するとあんま見られたくはないが、ズボンからでも解るまでに主張している俺のを一瞥した後少し沈黙して、またレッド先輩が口を開く。

「襲ってないんだね?」
「はい、誓って!!!!」

なんとか和らいだレッドに活路を見つけたりと勢い良く頷いたゴールドだったが、ゆっくりと立って柔らかい笑みを浮かべたレッドに表情がひきつる。

「わかったよ、ゴールド。」

あ、俺死ぬかも。



「とりあえず殴らせろ。」


捻りの利いたレッドの拳に骨が砕けたような音が響いた。




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