美大生グリーン6




携帯のコールがなって、飲み干そうとコーヒーカップに口をつけながら通話ボタンを押した。
陽気な声が聞こえてくると予想していたのに、そこから聞こえてきた声は全く違って、俺の頭の中は真っ白になった。
真っ白な世界で、自分だけが熱を持っているような感覚。
だから、いつの間にかホテルの前に立っていて、来るまでの記憶なんて持っていなかった。


電子の向こうで、グリーンはないていた。




勇んで入るも、部屋はどこか解らない。店員もこんなプライベート空間、個人情報を洩らせるわけがない。

ずっと通話状態にしてある携帯を眺める。

本当は、聞きたくもないけれど、音を受け入れる耳を切り落としてしまいたくなるけれど、それでも携帯を耳にあてがった。

『っは、いやだ、ってん、だろ……!!』

『本当にそうなんすか?グリーン先輩。』

『っふ、ぁあ!!』

グリーンの耐えきれずに洩れる喘ぎ声。それが、俺じゃない誰かの手で出されているというのが気にくわない。しかもグリーンは本気で嫌がってる。つまり無理矢理だ。
ずっと好きだった。グリーンのことが今もずっと好きなんだ。
俺の事を先導してくれ、皆の面倒役も買って出て、偉そうにしてるのをみんなは疎く感じていたみたいだけどスムーズに進めるためにグリーンは嫌われ役も買ってしまうような本当はとても気遣いやさんなグリーン。
高一で心を閉ざし、女装癖までつけて、周りをからかうことで心の均衡を計ろうとしてしまうような不器用なグリーン。それでも友人や家族に対しては心配かけまいと強がるグリーン。
本当は優しいグリーンがいつだって好きだった。彼を救えない俺を憎く感じてしまうほどに好きだから。

だから、グリーンを悲しませる輩が許せなかった。

ドアの隙間に耳を当てて中の音を探る。携帯の音とダブればビンゴ。
グリーンも相手も電話が繋がったままなのに気づいているのかいないのか、どちらにせよ切られてしまっては終わりだと兎に角急いだ。
そして一階の最奥。
他の部屋から漏れる駄々甘い声に精神が磨り減らされイライラも高まってきていたときだった。

『「はっ、いやだぁぁあ……!」』

声が、ダブった。
多少のズレがあるものの、確かにグリーンの声色だ。

静かにドアノブに手を掛けるが、当然開くことはない。
一旦、繋がっていた通話を終わらせリダイアルする。普段から作品製作の時以外はマナーモードを外しているグリーンだからイヤでも気づく筈だ。
あまり、ドアを開けたあとの光景は想像しないようにする。だって、あまりにもオレからすれば酷な光景だろうから。

何コールか繰り返した後、通話が繋がる。

『………』

「開けろ。」

声がいつもよりオクターブ下げたような低さに、第三者のように「レッドは とても おこっているようだ」と思う。
携帯の向こう、どちらが出たかは解らない。ただ、どちらにせよ俺は双方に怒っているから対した差はなかった。

離れた場所からくぐもった慌てるような声が聞こえてきた。
きっと、相手が出たのだろう。そしてグリーンは現在進行形で犯されている。この電話の向こうの奴、殺しても殺したりないくらいに憎い。拘束した後に血管に管を刺して徐々に血を抜いていってやろうか。ソレほど許せない。

『っあ、も、ムリっやぁ、あ、あ、イっ、くぅ…っやぁ!』

不意に溢れ出すグリーンの懇願に脳のキャパは満タンになった。俺は多分相手を認めた途端殺意が抑えられない。客観的な理解だってあるくせして俺は殺意を抑える気もないんだろう。

『ちょっと黙って下さいよ』

『ふっ!?ん、んぅー!』

口を抑えられたような声が聞こえてくる。今すぐドアを蹴破って男の首を閉めに行ってやりたいが叶わないのが酷くもどかしい。グリーンにはああ言ったが俺だって体育会系ではないから壊せるような怪力ではないのだ。

グリーンの声が切羽詰まったような声になっていき、やがて果ててしまったのだろう。声が止む。

『ちょっと待ってて下さい、殴んないで下さいね?』

通話は切らなくても結構ですよ、男が言った後にグリーンを抱えあげたらしい音やらが聞こえてくる。



生憎、殴らない約束なんて俺にはなかった。





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