美大生グリーン2


俺は幼馴染みとルームシェアをしている。
仲が悪くなるも何も昔から片方の家に止まるなんてことはしょっちゅうだったし、ケンカもしょっちゅう。今更ルームシェアごときで亀裂が入る関係ではない。
幼馴染みは美大へ、俺は普通に勉強だけの道、たまたま近場だったから節約にとルームシェアしただけ。
そう、幼馴染みは男だから問題はないんだ、なのに部屋に散らかる女服。

最近自習にいいと休日通いだしたチェーン店のカフェ、外を見れば既に暗くなっていて、俺が朝起きたときには居なかった同居人からそろそろ電話がくるだろうと携帯を机に置いて、残り少なくなったカプチーノを飲む。
そうして一息ついた時に振動する携帯。

「もしもーし、レッドー!?」

至極楽しそうな声色に、今日も彼が思い描いた通り事が進んだことを知る。
声を聞きながら店を出て、居所を聞くときにはエンジンをかけて車を動かしていた。

5分とせずに見える彼の顔はやはり男というにはふんわりと柔らかい印象を受ける。そうしてバッグからは女物のフリルがあしらわれた服がチラリ。




そう、俺の幼馴染みは

悪趣味だ。



─知らない憂い─


つまり、俺の同居人は幼馴染みで普通に男なんだけど、休日は女装しては軽そうな軟派男をひっかけて遊んでいると言うわけだ。別に女装趣味にケチをつける訳じゃないさ。しかし、男心を弄ぶのは悪趣味だと言ってやる。
というより、
そういえば彼は人目を気にする質だったからやめると思っていた。
しかし、結果は俺の目論見大失敗。
気がついたら増えている女物の衣服に、化粧品。
普段の彼からは想像もつかない変わり様の彼女に俺は言うことを諦めた。
今はせめてもの小言におさめている。

美術の腕を使うところを間違っているだろ、
君なりに考えての行動なんだろうけど、
男の人、可哀想と思わない?


何より、俺はグリーンが心配だった。

その綺麗な可愛い見た目だって男性を隠しきれる訳じゃないし、君を好きになってしまった輩が種明かしをした後に「それでも構わない」と迫ってきたら?
同性愛者をひっかけてソイツにバレてしまったら?
もとから運動神経が良いにしろ、線は細いし美術系に行ってからは筋力も以前より更に衰えているんだろうに、力負けしそうな条件でどうやって危機から逃げるんだ。

そこに俺はいないのに、誰が守るっていうんだ。

そんな心配が俺を車でカフェまで通わせるようになった。歩きにしては遠すぎる距離、通うようになったのはグリーンが誘導する風俗の通りに一番近い、落ち着いて自習出来る空間だから。
何かあったらすぐ行けるように。

多分、俺はグリーンの行動の要因を知っている。だけどどうすることも出来ない。俺じゃ、グリーンの心に何も出来ないから、せめてこれ以上要因を作らないように振る舞うしかない。
苦痛にはならない、だって俺はグリーンが大事だ。きっとグリーンはほっといたら壊れてしまう。そっちの方が俺は苦しい。
バックミラー越しでは彼の表情は伺えない。
だけど、遠い目をしていませんように、
寂しそうにしてませんように、
高校に通っている間に突如失われた心からの笑顔をまた見せてくれるように、
ただただ俺は見守るだけ。





不安は埃のように積もる一方




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