お隣の変態さん



時刻は23時17分。
オーキド邸はいつも通りリビングの灯りは消え、グリーンの部屋に明かりが灯るのみ。全く規則正しいもんだ。俺んちの母さん今どうせ韓国ドラマ見ながら寝だしてるぞ。

やがて、観察しているとグリーンの部屋の明かりも消される。コレも予定通り。
よし、意気込んでオーキドさん家の屋根に静かに飛び乗り、グリーンの部屋の窓を開ける。
ベッドに静かに歩み寄れば肌寒かったのかもぞりと布団を被り直すグリーン。

「グリーン夜這い作戦、決行」
「じゃねぇよ。バカか」

布団を剥ぎ取るとともに俺の脳天にかれいに響くチョップ。
……作戦、失敗のようだ。



時はかわって、明るくなった部屋。ベッドに座り、足に肘をつけ頬杖をつくグリーンの目の前には床に正座をさせられて一切視線を合わせないレッド。

「………で、なんのつもりだったんだ?レッドさんよぉ」
「言葉そのまんまの意味です。」「一回死んでみるか?」

会話は普通。しかし、いつもならランランと目を輝かせながらちゃんと顔を見て話すレッドが、今は全く合わせない。どういうつもりだ。ずっと一心不乱に真正面を見続けてる。

ん?

視線を推測するとあることに気がつく。そりゃベッドに座ってる俺と床に座っているレッドでは見ている場所はずれる訳だ。そして視線は丁度膝辺りなのだが膝は見ていない。

「……お前さっきからどこ見てやがる。」
「?、グリーンの股か…」
「黙れ変態」

なんでそんな当然かのように答えてんだコイツは!
かなりドンびいた視線を向けるが、返答する際にやっとのことあげた顔が輝く。いつも以上に、それはもう異常なほど。

「その変態に向けるような表情堪らないんだけど。ねぇ、犯していい?」
「断る」

即答したが、片膝をたてたレッドが引き下がる気配は全くなく手をソワソワさせジリジリと近寄ってくる。

「俺らそういう関係じゃないだろ。」
「俺はそういう対象として見てるんだけどね、」

俺の真正面に足開いて座った挙げ句、そんな表情されて抑えられる訳ないだろ?
とかオイ、……オイ。
説教からそんな方向に行くなんて誰も思わないだろうし、第一俺は侮蔑の眼差し以外向けてないだろ。
確かに、告白はされた。
だが俺はその時にハッキリ「お前をそういう対象に見れない」とも異性愛者だとも伝えただろーが!

「その時ニヤニヤしながら惚れさせれんなら惚れさせてみろって言ってたじゃん」

ああ、言ったかもしれない。確かに、曖昧だが記憶にある。だがあれから二ヶ月、ずっと今まで通りだったじゃないか。
それに、

「ソレとコレとは話が別だろうが!」
「別じゃないさ、」


俺以外見れなくしてやる


そう言って手を伸ばしてきたレッドに、渾身の回し蹴りをお見舞いする。

カッコつけてたソバからわりぃレッド!

顔に当たっただろう、そんな筈なのに感触は違和感を伝えてくる。
ああ、もう。この感じは……、

「知ってたけどさ、グリーン容赦ないよね。」

腰を使ってだったから速度も威力もそれなりにあった筈なんだけどな、なんだこの虚しさは。俺だって仮にジムリーダーしてんだぞ。
俺の足を片手で受け止めた山籠り野郎は涼しげな顔でソレが更に虚しさに拍車をかけてくる。ていうよりイラつきになってきたぞ。

「放しやがれ、」

今の俺は片足を掴まれた状態で非常にアンバランスだ。両手をついてないとバランスが保てないわけで、生憎殴ることも出来やしない。

「えっ断る。」

きっと放せば殴られると理解しているんだろう。仕方ないから力ずくでほどこうとすれば、俺の上半身に向けて足を押してくる。
お陰で重心が上半身に移動し、さっき以上に体勢が悪くなった。

「せっかくのチャンス逃す訳ないだろ?」

なんて、俺の足を肩に乗せ覆い被さってきた幼馴染みはいう。
普段から散々コイツ「鈍感」だと言われる俺だがコレはわかる。
いや、わかったところで問題は問題だろ!

「おっオイお前ふざけんな!!!!」
「ふざけてないですー」
「黙れやめろ死ね!」
「もう………」
「!?」

頭を後ろから押さえられ口付けされる。
胸を押してのけようとするも、下にいる俺の方がどうにも分が悪い。しかも俺は彼女はいるが、そこまで至った事はない。つまり、未経験だ。そこまでいくまえに何か違うと感じて振ってしまうのだ。
だからといってファーストキスをレッドに奪われるなんて!
しかもコイツあっさりした性格と見せかけてなかなかキスが粘着質だ。
息がしたくて無意識に小さく開いた俺の口に舌が捩じ込まれて、避ける俺の舌に絡み付いてくる。弄ばれているようで気にくわない。

「っは、………グリーン、」

ようやく離された荒い呼吸にコイツも余裕がなかったのかと思うと少し余裕が生まれる。だけど自分の息も荒いのを悟られたくなくて無意味と知りつつ口元に手の甲をあてがった。

「エッロ……」

「うる、せぇ。……余裕ねー、くせっに、…」

「余裕そうだね、」

ああ、余裕「そう」だよ。くそっ、ニヤリとあがるレッドの口角が全てお見通しだと言っていて敗北感に見舞われる。
キスをされている間に服の前を開かれていたらしい、気づかないなんて俺はどんだけ………

優しく腹の横を撫でられて熱い吐息が漏れそうになる。必死に押さえていれば罵声が飛ばせるわけもなく、されるがままになる。

「その表情堪んない」
「胸の、かたくなってきたね」
「ソレ睨んでるつもり?煽ってるよね」

うるさい、黙れ。
一言も返す予定がないのが、悔しい。
身体中幼馴染みの男にまさぐられるなんて、考えるだけで気持ちの良いものではないのに、実際されているなんて。

「んあっ!?」

悔しさに目を閉じ耐えていると最も触られたくなかった場所に手を伸ばされる。

「っふ、覚え、てろよ……、っ!!」

「えっ、グリーンが仕返してくれるの?」

凄い楽しみ。笑いながら都合の良いように解釈するレッドを殴りたい衝動に駆られるが腕に力が入らない。話しながらも行為を止めないレッドに頬をひきつらせるしかなかった。














朝、目覚めてから昨夜の行為を思い出す。
一日中、悶々と頭を抱えていた俺がレッド以外見れなくなっている事に気づけるわけがなかった。




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