short | ナノ


角ナメクジがきれた。
他の棚を見てみると、ニガヨモギと山嵐の針、それにベゾアール石もそろそろ無くなりかけていた。
普段ならばふくろう便で取り寄せるものを、夏季休暇という事もあり、自らダイアゴン横丁に足を運ぶ事にした。
と言っても、ダイアゴン横丁までは煙突飛行粉を使って行くのだが。

「ダイアゴン横丁」
この手段を使うようになってから二十年弱になっていたが、未だにこの感覚は好きにはなれなかった。
漏れ鍋からダイアゴン横丁に出ると、ここ数日は味わう事のなかった人の波に飲み込まれそうになったので、道の端に寄り舌打ちをした。

夏季休暇に入って数日しか経っていないからか、薬問屋は思ったより混んでおらず、スムーズに買い物が出来た。
珍しく予定外の物まで買ってしまった位だ。
会計をしている間、静かで空いている店内とは真逆な外を見、ため息が洩れた。
会計も終わり、またあの人混みに入らなければいけない事にうんざりしていた時。
「スネイプ先生?」
声の方を振り返ると、そこには見知らぬ女性が立っていた。
「…どちら様ですかな」
「いやだ、**ですよ。四年前卒業した!私そんなに変わりましたかね」
そう言いながら髪を弄る彼女の顔をよく見てみれば、確かに見た事のある面影が残っていた。
今やショートだった髪は長く伸ばされ、社会人らしい化粧をしていた。
女性とは数年でこうも変わるものなのか。
「君は何故ここに」
「あら、先生と同じですよ」
そう言うと、昔から癖である含み笑いをした。
「と言うと、君は魔法薬に関わる仕事をしているのか。君のレポートには何度かO・優を付けたと記憶している」
「はい、ちょっとした研究をやらせていただいてます。でも九月からは薬学教諭の研修が」
「そんな話は全く耳にしていないのだが」
えっ、と**は小さく叫び、動揺した様だった。
「私、てっきりもうダンブルドア校長が先生にお話されているのかと」
それを聞き、ため息をついた。
全く、あの校長は何を考えているのか。
「九月から君は私の助手として就くという事か」
「そう、だと思います」
煮え切らない答えに、ホグワーツに着いたら真っ先に向かう場所が決まった。
そんな私の様子を見て、**は心配そうな顔になった。
「あの、私お邪魔になる事だけは絶対にないようにするので…」
「別に君が来る事が不快な訳ではない」
そう言ってやると、安心した様だった。
「私、スネイプ先生の様に教壇に立つのが夢だったんです」
「ほう、我輩の様にか。我輩の記憶が正しければ君の代の生徒達はあまり楽しそうではなかったが」
皮肉を込めたつもりだったが、**は笑顔で返した。
「私は好きでしたよ、先生の授業。無駄のない動きで調合されている先生を尊敬していました」
「それは教諭として当たり前の事だ」
そうは言うものの、まさか自分をこう思っていた生徒がいたとは。
寝耳に水な話だった。
「そうですね。それに私が実際に教壇に立てるのはまだかなり先でしょうし」
そう言って**はまた笑った。
その笑いは純粋なものなのか、自嘲も篭っているのかは定かではなかった。
彼女の自寮がレイブンクローであった故のものか。
彼女は時計を見ると、弾かれたように顔を上げた。
「いけない!これから研究所で用事があるんでした。先生、失礼します、ホグワーツでお会いしましょう」
「あぁ。君が優れた助手である事を願おう」
**は笑うと、それでは、と言って店を後にした。
ふと店内を見るとずっと店員に見られていた事に気付き、気まずくなりながらも私も店を出た。
夕刻を過ぎたからか人通りも少なくなり、すんなりと帰る事が出来た。
久しぶりの人混みに沢山の荷物、それにかつての教え子に会ったばかりかあんなニュースまで聞かされるとは。
どっと疲れが押し寄せてきた。
しかし不快になるどころか自分でも驚く事にその日はとても気分が良い日となった。




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