某も猫である。名前もまだ無い。


ようやっと独りで小さな虫を捕まえられるようになった頃。

某は屋敷を飛び出した。

母は某が大きくなるにつれて余所余所しくなった。

屋敷の人間は某を見るたびに毛柄や行動にいちいち気味悪がった。

某の毛柄はまるで異国の猫のようだった。
たしか、
あめりかんしょうとへぁ
という血筋の猫に似ている。
某の前世の記憶は人間の物であろう。
初めて見るはずの人間の道具に、名や使用用途などがなんとなくわかる事がよくあった。

某は前世で読書を嗜んでいたらしく、多くの書物の記憶があり少しは人間の文字を識字できた。
それ故、よく屋敷に忍び込んで書物をめくって眺めていたのだが、それを屋敷の人間に見られていたらしい。

兄弟をもたずに独りでうまれ、見た事も無いような毛柄を持つ、人間の書物を読み漁る猫。

まるで妖のようではないかと気味悪がった。

そうなると人間の考える事もすぐに理解した。
某は殺されるであろう。
母など他の猫も、某を助けはしないはずだ。
某も猫ゆえに理解しているが猫という種族は異端を避ける。

人間はそれ以上に異端を拒むことも理解していた。


[ 4/42 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -