猫、掌中の鈴と首輪。


「…偶然、ねぇ。」

総司が小さく呟いた。
彼と某だけとなっかた部屋の中には、鈴の音だけが響いている。
畳の上に胡座をかいている沖田は、山南からもらった鈴の音を楽しむ某の様子をただ見つめてくるだけで、特に何をするわけでもない。

「絶対に偶然なんかじゃないよね、山南さん。」

『偶然かどうかはわからないが、ありがたい事に変わりはないなぁ。』

今まで生きてきた中で人に物をもらったのは数少ない事であるし、玩具をもらったのは生まれて初めてだったのだから嬉しいものである。
さて、この鈴は大事な物だ。
どこに隠そうかと頭を捻らせる。

「…まあいいや。ねぇ、ちょっとこっちに来て欲しいんだけど。」

こちらに向けて話しかけてくる総司に適当ひ返事を返し続けていれば、彼は不意に畳から腰を浮かせて部屋の隅から小箱を手に取り、某を手招きし始める。
…総司に近づいてろくな事がなかった某にとって、なんとも言えない要求だが。

「おいで、ほら。何もしないってば。」

障子の事もあり、これ以上何か怒らせたら後が怖そうだ。
とりあえず山南から貰った鈴をなくさないように口に咥える。
こちらに来いと畳の上を軽く叩いている総司を見て、某は渋々近寄った。
一体何をされるのだろうと身構えていると、総司は某の目の前で小箱を開けた。

『…紐?』

箱の中には白い紐が入っていた。
総司は何を思って某にこれを見せるのだろう。
でもどこかで見た事がある様な。
一旦鈴を置いて箱の中身をより観察するべく覗き込めば、総司は手早く鈴を手に取った。
しまったと思った次の瞬間、今度は箱の中から白い紐をするりと引き抜き、総司は鈴に紐を器用に通していく。
何をしているのだろうかと首を傾げていれば、総司は某の首根っこを掴んで膝の上に乗せた。

「赤い木綿に金の鈴…ってわけにはいかないけど。ほらじっとしてて。」

某の首に紐がかけられる。
首の後ろでキュッとそれが結ばれると同時に、首元で鈴が小さく音を立てた。

「うん。結構似合ってるじゃない。」

それは首輪だった。
どこかで見た事があると思っていた白い紐は、総司の髪結い紐だった。
首輪なんてつける事はないと思っていたが。
総司が加減して結んでくれたのか、特に苦しいところもない。
しかも某に似合っているらしい。
試しに首を振ってみれば、チリチリと鈴の音が聞こえてくる。
まだ初めてで慣れないが、嫌と言うほどではない。
これなら山南から貰った鈴をなくしたりせずに済むだろう。
総司は某の首元を撫でながら、指先で悪戯に鈴を鳴らしている。

「…その結い紐、近藤さんから貰った物なんだから。大事にしないと斬っちゃうからね、ねね子?」

…まだ怖いところもあるが、某の中での総司の評価を少々改めようかと思う。

この首輪は、名前の次に大事なものとして生涯大切にしようと決めた。



ー猫、掌中の鈴と首輪。





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