某も猫である。名前もまだ無い。


某の前世は、人間であったらしい。

某は何処かの広い屋敷の床下で生まれた。某に兄弟はなかった。

暗い床下で兄弟もいなかった某は、母と某の頭上から微かに聞こえてくる音に耳を傾けて一日を過ごした。

ある日、上から聞こえた誰か≠フ会話の内容を伝えると、母が言った。

猫は人間≠フ言葉を理解することはまずできぬ。
それに、猫には名前なぞ必要ない。
何でもかんでも名前をつけて縛りつけるのは人間≠ョらいなのだと。

会話の内容は

「床下にいる仔猫の名前は何が良いだろう。」

というもの。
某も、母に某の名≠ヘなんというのだと問うてみたのだった。

【名前はまだない。】

その時の一度限りだけであったが、
某を見つめる双眼は鋭かったことを記
憶している。

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