猫、己の名を知る。


千鶴が使っている狭い部屋。
そこに円になって座る七人の人間と、円の中央にいる猫。
ここの人間は、話題の中心になっている物を取り囲むのが好きらしい。
全方向からの視線が気になって仕方がない。
それと、

「なあ、土方さん?コイツの名前はチビ助がいいよな!?」

「だーかーらー!タマだって!!やっぱりタマがいいよな、土方さん!?」

平助と新八はまだやっていたのか。

「…お前ら、ちったぁ静かにできねぇのか!!めんどくせぇ、コイツは縞模様だろ?トラとかシマにでもしとけ!」

「…土方さん、ちょっとそれはかわいそうじゃねぇか?」

般若よ、そのまんますぎるだろうそれは。
そこをつっこむ原田はやはり常識的である。
原田も某の中でいい人に分類しておこう。
しかし、近藤さんは総司を呼んでくると部屋を出てしまったためいない。
ちゃんと千鶴もいるのだが、この場の雰囲気的に千鶴の方に移動もしにくいなぁ…。
この屯所で暮らすのなら早くこの状況などに慣れなくてはと思っていれば、近藤さんが総司を連れて戻ってきた。
…近藤さんと話している総司は信じられないくらい愛想が良いらしい。
二人が円の中に入り、近藤さんが某の正面に座る。

「俺達が君の面倒を見る以上、ちゃんと名前を与えてやらねばな!」

またチビ助だタマだと喚こうとする二人に原田が肘鉄を食らわした。
よくやった原田。

「実はな、君の名前はもう決めてあるのだよ。」

近藤さんは笑顔でそう言うと、懐から一枚の紙を取り出して床に広げた。
某の中で世界が一瞬だけ、しん…と静かになる。

「君の名前は、ねね子≠セ。」

ねね子。
紙の上には大きくねね子と書かれている。
これが、某の名。
近藤さんが周りにどうだと訊けば、全員が了承し、それぞれが某の名を呼ぶ。
某の存在を確かにするもの。

「これからは、ここが君の居場所だ。よろしく頼む、ねね子。」

おかしい話だ。
恩返しに来た筈が、逆に自分の求めていたものを与えられているのだから。
某に居場所なんてなかった。
それが当たり前と諦めて、割り切っていたつもりだった。
でも、諦める事なんてできていなかったのであろう。
だって、某は今、この上なく幸せだった。
視界がじわりじわりと滲む。
どんなに辛くても流れなかったものが溢れる。

某は、

『ありがとう。』

ないた。

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