猫、興味を持つ。


土方が、口を開いた。

「これに書いてある名前の人間達はな、それぞれ武士として自分の志を持って集まってる。」

志=c?
某は驚いた。
土方が続けて言うには自分は近藤さんを武士として、なんと大名まで押し上げるのが夢と言い放ったのだ。
近藤さんが偉くなって幸せになるのなら、それはとても嬉しい事だ。
しかし、大名になるなんて容易な事でないに決まってる。
到底できっこない事だ。

「周りに何を言われようが、進み続けるのが俺達だ。でけぇ夢に向かってな。止まるわけにはいかねぇんだよ。」

まさかと思った。
おかしいではないか。
紫の瞳は揺るがない。
真っ直ぐに某の双眼を見つめている。
某の頭の思考がわかるのではないかと思うほど。
怖くはない。
怖くはないのに緊張が走る。
毛が逆立ちそうだ。
彼の顔は、恐ろしいほどに凛としている。
なぜだ?
印象や行動からして、この男は頭が切れるのはわかっている。
自分の言っている夢の実現の可能性なんてわかるはずだ。
この男が副長なのだ、新選組の隊士達の志や夢は無謀な物ばかりなのかもしれない。
命を懸け志を掲げ遠い夢を追い続けるというのか。
何がこの男を、この男達をそれに駆り立てるのか。
わからない。
理解できない。
武士の追う夢や、志を。

土方はふと力の抜けた笑いを漏らした後、やれやれと言った様子で呟いた。

「…なんて、お前に言ってもわかりゃしねぇか。」

わかっているが、わからない。
土方が某を畳の上に降ろした。

「なんだかんだで俺も山南さんも近藤さんに弱いからな…。お前を屯所に置く事になっちまったが、お前の気が済んだらさっさと出てけ。」

土方は優しく某の頭に手を乗せた。
土方の言った言葉が頭を廻る。
…わからない。
理解できない。
それ故に、知りたい。
武士達を駆り立てる何かを、某は。
それにこの男は今なんて言った?
気が済んだら¥oていけ、と言ったのだ。
気が済むまで、志とやらを見させて貰おうではないか。
きっと答えがわかるはず。

某は座布団の上で胡座をかいている土方の足の上に座る。
いきなりなんだと文句を言いながらも某を退けない土方はやはり優しい人らしい。
うん、千鶴には負けるが居心地も中々ではないか。
それに、ここからだと畳の上の文も読み易いだろう。
廊下の方から足音が聞こえる。
きっと近藤さんだ。
某の知りたい答えへの第一歩として、まずはこの会議に参加させて頂こうではないか。

もう、最初に考えていた心配なんてどうでもよくなってくるほどに、答えを知りたくなってしまったのだ。
武士というものに興味を持った。

…猫とは、興味を持ったら止まらない生き物である。



ー猫、興味を持つ。



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