猫、興味を持つ。
『何が起きた。』
こんどうさんが部屋を出て行った。
某を屯所で飼う事を般若ことひじかたに伝えに行ったらしい。
へいすけもそろそろ朝飯だからと部屋を出て、はらだは部屋の外に戻った。
呑気に千鶴に撫でられている場合ではないぞ、某。
こんどうさんの考えはとてもありがたい。
寝床や食事の確保ができるし、生活も楽になる。
あわよくば鰹節を食べれるかもしれない。
しかし、新選組の屯所は某の縄張りである地域から離れている。
そちらの方には猫として知り合った数少ない仲間もいるのだ。
それに、
「はぁ!?」
遠くから般若の声が聞こえる。
何よりも、暮らす環境というものが問題なのだ。
空家よりは綺麗だが、ここには般若がいるし、白襟巻きと翡翠の瞳の危険人物が二人いる。
その他にも隊士がうじゃうじゃいるのだ。
箒を振りかぶる隊士が頭を過ぎる。
『精神的な環境が劣悪であるし…体も持たぬわ!』
身の危険がジワジワと心の中に押し寄せてきた頃、中にいる相手に声もかけず、誰かが部屋の襖を開け放った。
「おはよう。食事持ってきたんだけど。仕方なく猫の分もね。」
翡翠色の瞳と目が合った。
よりによって、早速来たのはそうじ。
仕方なくとは失礼な。
「お、おはようございます。沖田さん。」
千鶴も顔が引き攣っている。
沖田は千鶴の前に膳を置くと、某の目の前にも小皿を置いた。
小皿の上には煮干しが乗っている。
「君、僕に挨拶はしないの?」
この男は猫相手にも挨拶を求めるのか。
そんな事、某には関係ない事だ。
反応せずに煮干しを頬張る。
「ねぇ、挨拶はって言ってるんだけど?」
そうじの目が細められる。
声も不機嫌そうだ。
…どうしよう、ここは返事をするべきか。
刀に手をかけている時点で手遅れか。
沈黙が続く。
「…やっぱり、人の言葉なんてわかんないよね。期待して損したかな。」
猫に挨拶を求める事に驚きだが。
「少しでも反応してたら、化け猫だとか適当に理由をつけて斬り捨てられたんだけどなぁ。」
そのまま彼は部屋を立ち去った。
…斬り捨てる?
試されていたという事か?
返事をしなくて良かったと心から思った。
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