猫、武士に恩返し。


「はぁ…。」

私は小さくため息をついた。
新選組に保護されてもう一週間。
殺されるよりはマシだけれど、部屋の外では幹部の方が見張っていて、父様を捜しに行きたいのに自由に外には出れないし。
保護より軟禁に近いのかもしれない。

「猫さん、どうしてるのかな…。」

そして、猫さんが屯所から出て行って一週間が経つ。
野良猫だからどこに行ったっておかしくはないけど、なんとなく私はずっと傍に居てくれるものだと思い込んでいた。
猫さんが傍に居てくれるとなぜか安心できたのもあると思う。
また、会いたいなぁ。

「おいおい、近藤さん。また来たのかそいつ。って、平助もいんのか。」

「ああ、そうなんだよ。雪村君に会わせたいと思ってな。」

「俺をおまけみたいに言うなよ左之さん!」

部屋の外で見張り番の原田さんに近藤さんと藤堂さんの声が聞こえる。

「雪村君、入ってもよろしいかね?」

近藤さんの声にはいと答えれば、

「えっ、猫さん!?」

襖が開けばそこには近藤さんの腕の中に猫さんが。

「おっと、雪村君のところに行きたいみたいだな。」

近藤さんの腕の中から猫さんがぴょんと飛び出してきた。
久しぶりに会えて、ちょっと嬉しいかも。

「なぁ、気になったんだけどさ。なんでコイツを猫さん≠ネんてさん付けで呼ぶんだ?」

藤堂さんが、私の手にじゃれつく猫さんの近くにしゃがみこんで話しかけてきた。
…考えた事なかったかも。

「なんとなく…ですね。どこか大人っぽく感じるというか。」

「コイツが?それは無いって…って痛たたたたッ!痛いっての!!」

藤堂さんが吹き出した瞬間、猫さんは彼の手にかぷりと噛み付いた。
やっぱり、頭がいい子だと思う。
それを見て笑っていた近藤さんが口を開いた。

「この子は随分と雪村君に懐いているようだな。かわいいかね?」

「はい。懐いてくれてるみたいで嬉しいです。」

「そうかそうか。…雪村君は動物が好きなんだな?」

「は、はい。好きですけど…。」

近藤さんは腕を組んで何か考え込んでしまったみたいで、藤堂さんと私は顔を見合わせた。藤堂さんの手を甘噛みしていた猫さんも近藤さんを見ている。

「なぁ、近藤さん。まさかとは思うがその猫…。」

部屋の外から引き攣った顔を覗かせる原田さんの言葉を遮ってにこやかに近藤さんは口を開いた。

「よし!この猫を屯所で飼おうじゃないか!!」

少し間が空いて、藤堂さんと原田さんの驚愕の声が響く。

「ちょ、待ってくれよ近藤さん!なんでそうなるんだよ!?」

「なんでって、平助。雪村君は動物が好きだそうじゃないか。彼女は普段外には出れないのだし、この子がいれば少しは気が紛れるだろう?」

「いやいや、まずいって!土方さんや山南さんが黙っちゃいねぇだろうし、第一うちにそんな余裕が無いのはアンタが一番わかってる事じゃねぇか!?」

「原田君が言いたい事はわかるが…。トシ達には俺から話をつけよう!全ての責任は、この近藤勇が取ろうじゃないか!!」

よし!と膝を叩いて勢い良く立ち上がる近藤さん。

「そうと決まれば、早くトシ達に話しに行かなくてはな!ついでにこの子の朝飯も用意してもらおう!!」

近藤さんは猫さんの頭をわしわしと撫でた後、幹部二人の制止を気にもとめず意気揚々に部屋を出て行った。

「やべぇよ!土方さんが言ってた面倒事って、これだったのかッ!」

「…あの近藤さんだ。土方さん達が折れるのは時間の問題だろうな。」

…良く分からないけど、もしかして余計なことをしちゃったのかな?

「つーか、ぜったい近藤さんがコイツ飼いたいだけだろ!」

「…だな。」

でも、そうなったらいいななんて思ってみたり。
猫さんは状況を理解してないみたいで苦笑いしている二人と私とを交互に見ている。
その姿がちょっと可愛くて、少し頬が緩んだ。


ー猫、武士に恩返し。



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