猫、武士に恩返し。


『危ないところだった…。』

某は新選組の屯所の近くで花を運んでくれた不知火と別れた。
その後、屯所に入ってすぐの所で新選組の隊士に見つかり追い出されそうになったのをへいすけが助けてくれたが、花は一本の八ツ手以外は駄目になってしまった。
しかも、その後やってきた般若ことひじかたが某の目的を知った上で花を奪って追い出そうとするわでその場から逃げ出したのである。
恩返しなのだから、自らの手で達成せねば意味が無いではないか。

『ところで、こんどうさんの部屋は何処ぞ?』

さて、また困った。
某は千鶴のいた部屋と広間ぐらいしか屯所の部屋を知らぬのだ。
屯所の縁側付近でうろうろしていれば、某が来た方向からへいすけが走ってきた。
まさか、般若に説得でもされて某を捕まえに来たのではないだろうな。

「お前さ、ひとりでうろちょろすんなって!」

へいすけは某をさっと抱き上げた。

「どうせ部屋の場所わかんないだろ?そろそろ起きてる頃だし、こんどうさんの所に行くぞ。」

へいすけは某を抱き上げたまま歩き出した。
般若にほだされていなかったようだ。
それにしても、へいすけの印象は首根っこを掴まれた時以来あまり良くはなかったが、凄く優しい人間だった。
たしか隊士に組長≠ネんて呼ばれていたし、実はかなり偉い立場なのか?
…栓議で広間に集まっていた人間の一人なのだからあたり前か。
某を抱き上げる腕も細身のわりには逞しいが、仕草は某を気遣ってくれているようだ。
それにしてもへいすけも不知火に負けず劣らずの薄着だ。
寒くないのかは知らぬが、これが最近の流行りなのか?
とりあえず、某の中でへいすけは良い人の部類に格上げされた。

「こんどうさん。もう起きてるか?」

ある部屋の前で立ち止まったへいすけが部屋の中に声をかける。
ここがこんどうさんの部屋らしい。
急いでへいすけの腕からすり抜け廊下に降り、部屋の方を向いて座る。
お礼をしに来たのに人の腕の中だなんて失礼な気がするからだ。
よし、口にくわえている花も折れてないし大丈夫だ。

「おお、へいすけか。入ってくれ。」

こんどうさんの声が返ってきた。
へいすけは某を見てニッと笑うと襖を開けた。

「どうしたんだ?この時間になんて珍しいじゃないか…。」

朝から眩しい笑顔でへいすけにおはようと挨拶していたこんどうさんと目が合う。

「君!!戻って来てくれたのか?急にいなくなってしまって、心配したんだぞ?」

戻って来てくれた≠ノ何か違和感を感じるが、心配させたらしい。
やはり挨拶してから帰った方が良かったか。
助けて貰ったお礼にしては元から微妙だったのに一層釣り合わなくなってしまった花束。
…一本の八ツ手しかない時点で花束ではないが。
某は部屋の中に入ると、座っているこんどうさんの前にそれを置いた。

「これは、八ツ手か?これを俺に?」

こんどうさんは八ツ手を手に取って某をじっと見た。

「本当は椿とか色々集めてたらしいんだけどさ、コイツ平隊士に見つかって駄目にされちまったんだよ。それで残ってたのがそれだけなんだ。」

へいすけが某の頭にぽんと手を乗せた。
こんどうさんは不思議そうな顔をしている。

「しかし、なぜ俺に…。」

「こんどうさん、前にコイツを助けたんだろ?その時の恩返しに来たんじゃないのか?」

そうなのか?と、こんどうさんの問いに某は一つ鳴いて返事してみれば彼は某を抱き寄せた。

「俺は君が元気にしていただけで良かったんだがなぁ。俺のために花を集めてくれたのか、嬉しいよ。…ありがとう。」

ああ、良かった。こんどうさんが喜んでくれている。

「猫の恩返しかぁ…。良かったなぁ、お前。こんどうさんにお礼できて。」

へいすけが某に声をかけてくれた。
へいすけにも感謝しているぞ。

こんどうさんは花を手拭いでそっと包み文机の上に置くと某を抱いたまま立ち上がった。

「君がいなくなってから雪村君も心配していたのだよ。雪村君にも会いに行こうじゃないか!」

もちろん千鶴にも会いに行くつもりだったが、今からか。
へいすけは、やっぱりなと呆れたように呟いて、

「こんどうさん!俺も行く!」

某達について来るのだった。

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