猫、武士に恩返し。
「結構かわいい奴じゃんお前!」
わしわしと少し強めに猫の体を撫でてみても、今度は威嚇もされなかった。
強度の人見知り…みたいなもんか?
「おい、平助!なに朝っぱらから騒いでやがんだ!!」
猫が急に身構えたかと思えば、背後から不機嫌そうな声がした。
げ、と声を漏らしながら振り向けばそこには鬼の副長が。
きっと寝不足なんだろうな…。
「…猫?…ったく、お前また来たのか?」
土方さんが身構えている猫を見てため息をつき、地面に散らばった花弁や枝を見て怪訝そうな顔をしていたから俺はここで起きた事を説明した。
「猫が恩返しに来たって言うのか?…信じられねぇがな。」
「本当なんだって土方さん!コイツ自分の事より花を守ろうとしてたんだぜ?」
平隊士に箒で叩かれても逃げずに花を守ろうとしてたのは俺がこの目で見たからな。
「…コイツが花を渡そうとする人なんて近藤さんぐらいだろ。」
土方さんが猫の足元の花に手を伸ばした。
「この花は俺から近藤さんに渡しておく。…だからお前はさっさと帰れ。」
猫は土方さんが花を手に取る前にそれをくわえて屯所の方に駆け出した。
「なッ!待ちやがれ!!」
土方さんの制止の声も聞かずに走って行く猫。
「なぁ、土方さん。守ってる物をいきなり取ろうとしたら逃げるのはあたり前じゃねぇか?」
土方さんは苦虫をかみつぶした顔をして屯所の方を睨んでいる。
「それに、さっさと帰れってのも少し冷たすぎだろ?」
「…あの猫が近藤さんや雪村なんかに会ったりしたら面倒な事になんだよ。」
…面倒な事?
「それ以外の奴に見つかったとしても面倒だろ。…お前が見た平隊士の件がいい例だ。」
たしかにアイツがまた他の隊士に出くわしたら何が起こるかわかんねーな。
…なんか心配になってきた。
「お、俺、アイツの事探してくる!」
俺は朝稽古なんて忘れて猫の走り去った方向へ駆け出した。
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