猫、龍と花。
上着の上から某の背中を撫でる男。
「…野良猫の割には汚れてねーし、頭も良い。」
まぁ、少しは人の思考もあるし、身なりは気にかけている。
「お前、恩返しが終わったら俺の里に来るか?京からはかなり遠いけどよ。結構いいところだぞ?」
笑っているあたり冗談らしいが、里ということは人間ではない者がこの男以外にもいるという事か。
「野良の自由気ままな生活の良さもわかるが、悪い話じゃねぇだろ?」
この男は今どんな顔をして話しているのか。
上着と男の間から顔を出す。
「まだ言ってなかったな。俺の名はしらぬい きょう≠セ。」
しらぬいの漢字は確か不知火≠セったはず。
不知火は某の頭を優しく撫でる。
左腕の刺青の龍が某を撫でる動きに怖さはなく、不思議な心持ちだった。
一日の疲れと人肌の温かさで瞼が重くなる。
「もう気づいてるだろうが、俺は人間じゃねぇ。」
もう駄目だ。意識が心地良く遠のく…。
「俺は…」
意識が完全に睡魔に奪われた時、彼の言葉が部屋にこぼれた。
「俺は、鬼の一族だ。」
―猫、龍と花。
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