猫、龍と花。


「この椿に悪戯はやめといたほうがいいぜ?かざま≠フお気にいりだからな。」

枝から落ちかけた某を支えて地面におろしてくれた男は、特に怒るわけでもなく笑っていた。
某に触れる肌は褐色で、瞳は椿の様な紅。
冬の京とは思えない程の薄着。
一応は綿入れを着ているが、どう見ても中の衣服と合っていない。
旅館に借りたりでもしているのだろうか。

「…山茶花?これ、お前のか?」

男は足元に置いてある山茶花の枝を手に取った。少々雑に扱われたが花は無事なので我慢しておく。

「花なんて集めてんのか。猫が何に使うんだ?」

男は不思議そうな顔をして首を傾げた。

「お前、見た目も中身もかなりの変わり者だな…っと。」

お前に言われたくないと内心思った次の瞬間、男はいきなり椿の枝を折った。
椿の花がついた枝を某に向ける。

「ほら、コイツが欲しかったんだろ?」

自分が某に忠告していたのに大丈夫なのか?
受け取るのに戸惑う。

「俺は別にかざまの野郎なんて怖くねーからな。」

ケラケラと笑う男はかなり気が強いというか、好戦的な性格なのだろうか。
あと、誰かは知らぬがかざま≠ニやらは恐い人間らしい。
この男がかざまとやらではなくて良かった。

「で、お前どうやってこの枝持って行く気だ?山茶花もあるだろ。」

別々に持って行くつもりだったのだが。

「今日は気分がいいからな。この俺が持ってやる。ちょっと待ってろよ。」

男が椿と山茶花を持ったまま旅館の中に戻って行った。
この男、かなりの気分屋でもあるらしい。
…人間の中でも厄介な部類に入る男なのではないだろうか。

「ほら、お前が歩かないと行き先わかんねーだろ。行くぞ。」

男が戻ってきた。
その手には山茶花と椿、何かの包み、そして酒。
この男、何処かで晩酌でもするつもりらしいな。
その前に、なぜ某についてくるのか。
不思議に思いながら某は歩き始めた。


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