猫、龍と花。


夢を見ていた。

某は人間に囲まれている。

まあ、人間だろうか、というくらいに輪郭がぼやけているが。
自分の姿は見えないが、人間と同じ高さで目線が合う時点で某も同じなのだろう。

まわりの景色もぼやけているが、キラキラとした紐が部屋の壁に飾り付けられており、大きな台には色々な食べ物が並んでいていい匂いが漂う。

某の正面にいる人間が後ろ手に何か持っている事に気づく。
何を持っているのだろう?
人間が、すっとそれをこちらに手渡した。

…ところで、目が覚めた。
眠ってしまうのに陽当たりの良い場所で考え事をするなんて失敗した。

それにしても…、

『花束…だったな、確か。』

夢の中…というか、恐らく前世の記憶で某は花を渡された。
数は多くないが、綺麗な花。
男が喜ぶかどうかはわからないが、花は心を癒すとも聞いた覚えがある。
こんどうさんは新選組の局長という偉い人らしいし、疲れたりもするだろう。

急いで花を集めてみよう。
冬と言っても、探せば少しくらいあるはずだ。


『おお、あった。』

見事な椿だ。
しかし、仕方がないがこの季節の花は木に咲く物が多く、これの前に見つけたのは山茶花と八ツ手。
山茶花はできるだけ細い枝を見つけて、ただでさえ散りやすい花弁に注意しながら全体重をかけて枝を折った。八ツ手は先に寝床に使っている空家に運んでいる。
そして山茶花を運んでいる途中に見つけたのがこの椿。

立派な旅館の庭に植えられた椿。
枝がしっかりしていて折れないかなと思いきや、細めの枝の先にちゃんと花がある部分があった。運が良い。
きっと、白い山茶花と紅い椿を並べればとても綺麗だ。

旅館の塀の上から慎重に降りて、地面に山茶花をそっと置き、椿の木に登り始める。
今はもう夜だ。早く終わらせよう。
枝に到達して、さぁ折るぞと前足に力を入れる瞬間。

「おいおい、何してやがんだ?」

目の前に人がいる。
いつの間に?
驚いた某は力を入れた前足を滑らせ体制を崩し、枝から落ちた。


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