猫、龍と花。
『人が喜ぶ事とはなんだ?』
某は悩んでいる。
千鶴の身が安全な事を確かめ、新選組の屯所から出てきて五日ほどたった。
某は、屯所で再会した命の恩人であるこんどうさんに恩返しとして何かしらしようと考えている。
『全く分からん。思いつかない。』
普段は避けている人通りの多い通りの建物の屋根の上から人の店を観察してみる事にしたが。
『大きな物は運べない、まず猫が買い物なんてできぬ。クスねた物なんて渡しても喜んでなどくれないし。』
結局、良い案が浮かぶ事はなく。
沢山の人の声から離れた。
路地裏に入れば、物陰に小さい影が動いている。
ゆっくりと近づいて飛びかかれば、この季節には珍しい丸々とした鼠。
ほう、まだ若いのになかなか大きい。
美味そうな鼠。
…こんどうさんにあげたら、喜ぶかな?
『…駄目だ。鼠や小鳥で返せるような恩ではないじゃないか。』
鼠を掴んでいる手を離した。
特に腹が減って死にそうなわけではないから、今は食わぬ。
鼠は一目散に逃げて行った。
某は己の食だけに行われる殺生をギリギリまではしない考えだ。
かなり甘いとは思う。
動物としてはとんでもない。
『だから体が小さいのか?…いつまでもチビ呼ばわりは嫌だなぁ。』
そういえば、手を引っ掻いてしまったしんぱちにその件をまだ謝っていなかった。
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