猫、どこかにかえる

何だってんだ。

「いやぁ、こんな所で会うとは!元気そうじゃないか!!」

羅刹を見た女の処遇を決める栓議の最中、近藤さんと入れ替わりに広間にやってきた猫。
平助が引きずり込んで広間の中央に座らせていたが、近藤さんが広間に戻ってきた瞬間、猫は近藤さんにべったりだ。
近藤さんの腕の中でゴロゴロと喉まで鳴らしてやがる。
昨夜はどんなに追い払おうとしてもついてきやがるくせして、人と目が合うだけで唸ってくるような猫の態度の変わりように驚いた。

「おい、近藤さん。この猫の事を知ってるのか?」

俺が口を開けば猫が睨んでくる。
くそっ、目が合うだけで唸ってくるんじゃねぇよ。

「ああ、確か二ヶ月ほど前にな。」

「このチビ、近藤さんにも会ってたのかよ?」

新八が近藤さんの腕の中にいる猫の頭を少々雑に撫でると、猫は威嚇しながらその手を引っ掻いた。

「いってぇ!いきなり何すんだよ!!」

「待ってくれ永倉君!この子も悪気があってやったわけじゃないんだ!」

近藤さんが興奮した猫の背中を撫でてなだめつつ話しだす。

「この子に会ったのは二ヶ月ほど前にあった会合の帰りだったんだ。」

近藤さんが猫の頭をもう一度ゆっくりと撫でる。

「その時、この子は酒に酔った男に乱暴にされていてな。それは酷いものだった。」

「…それを、あんたが助けたってところか。」

「その通りだ、トシ。幸い大きな怪我も無くてな。かなり痩せ細っていたんだが、今は元気みたいで良かったよ。」

「へぇ、近藤さんらしいや。」

「…しかしひでぇ事する奴もいるもんだな。まだこんなに小さいってのによ。」

へらりと笑う総司とは反対に原田は眉を顰めた。

「…コイツの毛柄が原因だろうな。」

「その男はこの子を化け猫や妖の類と罵っていた。」

俺と近藤さんの言葉に平助が反応した。

「そんなのおかしいだろ!自分の姿なんて選べるわけじゃねぇのに…。」

「しかし、残念ながら人は異物を拒むものですからね。私達も京の人々に煙たがられているでしょう。」

「でも…。」

「それに、この猫の年齢で二ヶ月前はまだ親猫や兄弟などと生活していてもおかしくない時期です。痩せ細って動けなくなっていただなんて、長い間独りだったのでしょうね。」

「…辛かっただろうな。」

身に覚えがない罪で虐げられてきたのなら、人を恐がるのも無理はない。
新選組として京の人間に煙たがられている俺達なんかとは比べ物にならないだろう。
この猫はどんな辛い日々を送ってきたのだろうか。

そっと猫に手を伸ばせば、それは少しだけ頬を擦り寄せてすぐに離れる。

近藤さんに抱かれた小さな毛玉は、思っていたより強い生き物らしい。


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