猫、恩人との再会。


某は緊張していた。

へいすけ≠ノ捕まって、さの≠竄辯しんぱち≠竄轤ノチビと言われ、さいとうとそうじからの視線が気まずいし、ひじかたこと般若に睨まれた。
いのうえはやはり優しかったが。
こんなに沢山の人間に一度に見られることなんてしばらくだ。
そしてさんなん≠ニいう丸眼鏡の男の言葉に追い討ちをくらっていた。
某の考える事がわかるのか、この男は。
穏やかな笑顔で話しているが某を見る目は冷たい。
丸眼鏡の言う通り、某はできる限り人目を避けて生活したい程度に人間が苦手だ。
例外を上げれば千鶴とあの人≠セけだ。

あの人≠ニは某の命の恩人である。

二ヶ月ほど前に京の都の外れにたどり着いた某は、体力の限界で倒れた。
運悪く、三日ほどまともに食べる事ができない日が続いていた。
道端に薄汚れた奇妙な毛柄の得体の知れない猫が倒れているのだ。
人々は某を避けて通った。
そんな中、某に近づく者がいた。
酒に酔った男だった。
妖、化猫、薄汚い、気味が悪い…色々と罵られながら踏まれたり蹴られたり。
旅の道中で罵られるのは慣れっこだったが、痛みには慣れない。
空腹で苦しい横腹を蹴られ、踏まれる度に上手く呼吸ができない。体力の限界まで酷使した足では逃げられないし、下手に踏まれたりしたら骨が折れるのは目に見えたため、うずくまる事しかできなかった。
しばらくして、某の耐えていた痛みが急に止まった。
誰かの大きな怒鳴り声が響く。
顔を上げれば、何かを喚き散らしながら逃げる酔っ払いの後ろ姿と、

「大丈夫か?もう大丈夫だぞ。怖がらなくていい。」

心配そうに某を見る武士がいた。

「辛かっただろう。怪我はしていないか?」

ゆっくりと、某の身体をいたわる様に抱き上げる武士。

「うん、怪我は無いようだが…。こんなに痩せ細って、腹が減っているだろう?」

その後、武士は手持ちの荷物の中から水と食べ物をくれた。

その食べ物というのが鰹節≠セった。
貰い物だが、これしか猫でも食えそうな物が無くてなぁ、と武士は小刀で鰹節を削りながら言っていた。
某にとっては最高のご馳走だった。
それ以降、某の好物は鰹節であるし、その武士と出会わなかったら今の某はいないのはもちろん全ての人間を憎んでいただろう。
その武士の笑顔は暖かく、お天道様のような、空の様に広い人。
名前も知らないあの人は何処にいるのだろうか。

あの人の事を思い出していると、勢い良く襖が開く音がした。
驚いて振り返れば時間が止まる。

そこには、ずっと会いたかったあの人。


―猫、恩人との再会。



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