猫、恩人との再会。


『栓議の場所は何処ぞ。しかも迷った。』

歩き回ったはいいが、部屋の中の気配を探ったり、廊下で人の気配がすれば隠れたり、それをする内に今いる場所がわからない。
猫は道に迷わないとか言うが、それは落ち着いている時の話であるし、そもそも新選組の屯所なんて某の縄張りではないのである。
…千鶴から離れてしばらく経ってしまった。心配しているか、猫が自分を置いて逃げ出したとか思っているだろう。
そう千鶴に思われるのは嫌だった。
早く情報を掴んで千鶴の元に戻ってやらねば。
人の気配なんて構わずに廊下を走る。

…今思えば、馬鹿な事をしたと思う。

ある部屋の前に来た時、急にその部屋の襖が開いた。
固まる某。
それを見下ろす長髪の黄色い着物を着た青年。
青年の足の間から、そうじにさいとうにいのうえやひじかた、他に知らない人間が数名、部屋の中にいるのが見えた。
ここが栓議の場なのだろう。
そうじの目が光る。
某は青年が開けた襖に爪をかけ、

ピシャン!

勢い良く閉めた。
よし、帰ろう。
帰るというか逃げよう。
そういえば千鶴のいる部屋がわからないんだっけ。
どうしたものか。

「ちょっ、おい!待てって!!」

もたもたしていたら、これまた豪快に襖を開けた青年に首根っこを掴まれる。
そのまま部屋、というか大広間に引きずり込まれた某は逃亡を諦めた。
そうじの笑い声が響く空間の中で男達の注目を浴びる。
猫として恥ずかしい失敗である。
…すまない、千鶴。
まだ当分帰れそうにない。

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