猫、朱色に浅葱をみる。


次に起こる悲劇を想定して目を背ける。

壁に飛び散る赤、しかし崩れ落ちたのは白と浅葱。

千鶴は斬られなかった。
白髪赤眼が刀を振り下ろす瞬間、背後から黒髪白襟巻きの浅葱色が心臓を一突きに化け物を仕留めたのだ。

今さらだが、この浅葱色には覚えがある。普段は人目を気にしているからあまり見た事はないが、京で壬生狼と呼ばれている人斬り集団。

『…新選組…だったか。』

新選組のことなどほとんど知らぬが、ただの人斬り集団なんかではない事はわかった。

屋根の上で姿勢を低くし様子を伺う。
千鶴を狙った化け物を殺した、黒髪を横に一つ結びにした白い襟巻きをした男。
人斬りをしたばかりとは思えない声音で喋る翡翠色の瞳の茶髪の男。
そして、

「逃げるなよ。背を向ければ斬る。」

長い黒髪を高い位置で結い上げた、千鶴に刀を向ける美丈夫。
雲が晴れ、気づけば降り出していた雪を満月が照らす。
彼らは何者なのか。
それより、千鶴は大丈夫なのか…。
そう思っても体が動かない。
今更ながら、恐怖に体の自由が支配されていた。
逃げたい。でも、独りで逃げるわけにはいかない。

気づけば、うずくまっていた千鶴の体が倒れ込む。
気を失ってしまった様だ。
男達が白髪赤眼の浅葱色の羽織を処理している間に路地裏にそっと降りる。
男達は千鶴を殺すわけでもなく、何処かに運ぶらしい。
何をするつもりなのか。
千鶴を運び出し始めた男達の背中を睨む。

その瞬間、茶髪の男が振り返った。
口元に笑みを浮かべてはいるが、細められた翡翠の様な瞳はぎらりと光る。

「そこに居るのは、誰?」

背筋が凍った。


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