猫、白雪に出逢う。


陽当たりの良い屋根の上から移動した某は、路地裏を歩いていた。

『散歩をしばらく続けるか、飯を探しに行くべきか。』

夕餉にはかなり早すぎる時間帯なのだが、今日は【朝餉争奪戦】に負けてしまったのだ。
毎朝、小料理屋の優しい若女将が小さな魚の切り身やら出汁をとり終わった煮干しやらを猫のために店の裏にそっと置いてくれるのである。
某は京の猫からしたら新入り猫である。
ただでさえ煮干しを二本ほど食えるか食えないかのところを、今日は魚の骨も食えなかった。

『何かくすねにいくか。できる事なら鰹節が良いな。』

某の好物は鰹節≠ナある。
その訳にはある出来事があるのだが、それについては後に語ろう。

その後、食べ物をくすねに入ったはずの家の中で人間に見つかるというヘマをしたのだが、相手は童だった。
食べ物をたんまりもらった某はその家を後にした。

某への行為がばれた童を叱る母親の言葉なんて聞かずに家を出た。

「…こんな、気味の悪い奇怪な猫に…!」

某は、何もきいていない。

そして、もう一度昼寝をしようかと適当な家の軒下で顔を洗いながら考えていたところ。
奇怪な猫の元へ奇怪な娘がやってきたのである。

「……………。」

娘はしゃがみこんでじっと某を見つめている。
なぜだか、手を出したり引っ込ませたりとおどおどしていて。

「…不思議な毛色…。」

気分が悪い。
そんなに気味悪かったら何処かに行けば良いだろうに。
何なのだこの娘は。
思わず尻尾を動かしてしまう。
人で言うところの貧乏揺すりに近いだろうか。

「えっと、…さ、触ってもいいかな?」

耳を疑った。
某に関わろうする人間は無知な童くらいである。
…実は過去に一人だけ例外がいたのだが、それは別として。
この娘の謎の行動の理由はそれだったのか。

しゅんとした顔で引っ込ませようとしている娘の手にそっと擦り寄った。
なんとなく、無意識の行為だった。
…これについては某自身も驚いている。


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