幕間

彼は、どういうつもりなのだろう。

開けることのなかった、障子の向こうにいた気配がゆっくり離れていくのと同時。
返事を返そうと開きかけた口を閉口してから押し殺していた息を吐き出した。
何故なのかは自分でもわからない。
ただ彼が、北上清虎が自分の部屋に訪れる度にそうせずにはいられなかった。

私が左腕に傷を負ってから、もうすぐ三月ほど経つだろうか。
私の容態が幾らか落ち着いた頃から、彼は何かとつけて私の部屋に通うようになった。
急を要する用件や重要なものでもなく、今日は天気が良いだとか、茶菓子をもらったから一緒にどうかといった事を理由に。
最初の何度かは誘いを断り、その後数回は部屋に招き入れ、談笑していたと記憶している。

開かれる事のなかった襖への視線を逸らすも、自分の左腕に巻かれた白が目の端に映り込んでは視界が歪む。

ここ数日の内、私はまた彼を拒み続けていた。
彼を嫌悪しているだとかでは、断じて無い。
確かに、一時期は彼の会話の内容に辟易していた事もある。
刀を再び握れるかも危ういこの身には、彼の口から時折出る稽古の話題はどうしようにも些か心が荒れてしまうものだ。
今の私に対してその類いの話題を平然と投げかけるのは彼ぐらいだろう。
初めの頃は私に対する当て付けかと憤っていたが、その様子を見ても彼は私に対して何か取り繕おうとする事も無く、平然としていた。
それでいて、私が何かしら非難した事柄については、謝罪の言葉を返すのだ。
そうして話したい事を伝えるといつも通り彼は帰って行く。
時折、身体を労る言葉をを添えて。
変わったのはそれくらいで。
それぐらい、彼は以前と変わらないように思えるのだ。
左腕がこうなってしまう前と。

自分本位で、私に対する気遣いの無い彼との会話は、私を苛つかせた。

彼は自分勝手だ、私の事を、今の私の状態を、理解していないに違いない。
…馬鹿馬鹿しい、そもそも彼と知り合ってどれくらい経つだろう?
彼は私の事を知らなくて当然ではないか。
それを差し引いても変化がないのは元来の放埓さ故なのだろうか。

部屋の外、静かだった廊下から他の隊士達の声が聞こえてくる。
全ては聞き取れないが、その意味はありありと想像できた。

あの雑音は、気遣う言葉を衣にして、憐れんで、嘲笑しているのだ、私を。
考えるだけで神経がひりつく。
頭が痛い。

「…これなら彼の話を聞いていた方がましだ。」

無意識に呟いた言葉に、瞠目した。
何がしたいのか、自分自身でもわからない。
…矛盾している。
何を言っているのだ、私は。

思わず目眩の様な感覚に襲われ、私はそのまま目を閉じた。



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