抜け出た先の新たな縁


一方その頃、

『…っくしゅんッ!んー、そろそろ気づかれたかな?』

北上清虎こと北上美涼は、京の通りを鼻歌交じりに歩いていた。

二日酔いで動けない藤堂の代わりに買い出しに行く、…という名目で新選組屯所を抜け出してきた##NAME1##は、意気揚々に京の人混みの中を進む。

会話している間、一度も目を開かなかった藤堂の反応からして、恐らく彼は自分の代わりに買い出しに行かせた人間が私だと気づいていない。
新選組からすれば私は屯所から脱走した事になるのだろうが、私はあくまでも
藤堂組長から食材の買い出しを頼まれた
と主張するつもりだ。
藤堂には悪いのだが、この名分を思う存分使用させてもらう事とする。

『…怒られるのは勘弁だけど、どうしようもないからなぁ。』

そもそも、私が屯所から脱走したのには理由がある。
一つは、不要な未来の道具の処分ができる場所を探す事。
屯所には未来の道具を処分できる場所はなく、人目も多過ぎるため外に出なくてはならない。
しかし、私が外に出ようものなら新選組は黙っちゃいないだろうし、出れたにしても確実に監視が付く。
遅かれ早かれ、私は新選組から脱走しないといけなかったのだ。
しかも、この時代の京の地理にはまだ疎い私は最低でもそれを二回は行わなければいけない。
道具の処分ができそうな場所に目星を付ける事、屯所から道具を持ち出して処分する事の二回だ。
今回はその一回目というわけである。

『…幹部達に饅頭でも買っておこうかな、雪村の坊っちゃんには高いやつを。』

もう一つの理由としては、ただ単に外に出たかった。
ただそれだけである。
今まで旅をしていた事もあり、屯所にずっと軟禁されていては息が詰まって仕方がない。
甘味などの食べ歩きができないのも辛いところだ。

京の甘味を思い浮かべて口元を緩ませていた美涼は、賑やかな商いの風景を見て懐へと手を差し入れる。
…甘味の前に、まずはおつかいを済ませなくては。

『…えっと、意外と量が多いんだよね。』

藤堂から受け取った紙切れに書いてある内容からして、思いの外買う物が多い。

『…とりあえず、そこの青物問屋に行ってみようか。饅頭を買えるかはおつかいの後。』

紙切れを懐へと戻し、屯所から無断で失敬してきた籠を背負い直した美涼は、手近にあった店先へと足を向けた。



日が段々と傾いてくる頃。

『あー、甘味は余計だったかな…?』

大量の食材に酒、諦めきれずに買ってしまった饅頭と団子の包み。
美涼は大きく息を吐きながら、ゆっくりと帰路についていた。
自慢の腕力があるため、さほど疲れはないものの、酒や甘味の包みで両手が塞がっているおかげで動きづらい。
それと、腕力は人一倍あっても足腰の力はそれほど強くない事もあり、背負い紐を両手で掴んでいないと後ろにひっくり返りそうになるのだ。
夕暮れ時と言ってもまだまだ人通りも多く、それらからの視線も気になり尚更歩きづらい。

『…裏道、使った方が早く帰れるよね…。』

…しばらく前、その考えで人生最大の失敗を犯したのだが、今はまだ日も出ているし危険はないはず。
新選組幹部達に怒られるのはもちろんだが、早く帰りたい理由はそれだけじゃない。
今、私が背負っているのは背負い籠。
そう、私の大事な野太刀、胡蝶蓮は私の手元にないのである。
籠のおかげで背負う事ができなかった胡蝶蓮は、私の自室でお留守番中なのだ。
仕方がなかった事ではあるが、正直に言うと心配でしょうがない。

前回の失敗もあり、まさかとは思いつつ背後の安全を確認した美涼は駆け足で裏路地へと入り込み、

『…えっ、うわッ!?』

すぐに何かとぶつかった。
何かと言うより、人にぶつかったのだ。
それも大柄な男、しかも強面と来た。
ぶつかった拍子に大きくふらついた自分の腕を掴む手からしても、その腕っ節の強さが窺える。
私は今、大量の荷物を抱えているのだ。
相当な重量になっているはずなのだが、それを軽々と支えている。

…私が路地裏に入ると、

「貴方は…。」

ろくな事がないらしい。

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