抜け出た先の新たな縁
「…あ〜、めんどくせぇなぁ…。」
新選組屯所の縁側で、目を閉じ仰向けになっている男が一人。
こんな所でどうしたんですか、藤堂さん。…顔が青いですよ?
ぐったりと横になっている藤堂を心配して偶然そこに通りがかった人物が声をかけるも、その声は藤堂の頭の中では朧げに響いていた。
「…おう、ちょっと昨日は呑み過ぎてさ…。」
気分の悪さと睡魔に同時に襲われていた藤堂は、声かけに若干の間を置いてから目を開く事もなく反応を返した。
それはいけませんね、程々にしないと。
頭じゃわかっているんだがと苦笑いしつつ、藤堂は動かすのも億劫な腕で手に持った紙切れをひらひらと動かす。
「…二日酔いで気持ち悪いんだけどさぁ、俺、一君から食材の買い出し頼まれてんだよ。」
二日酔いで買い出しに行けなかっただなんて、鬼副長あたりに知られたらさぞかし面倒でしょう。
「…だよなぁ。」
藤堂が憂鬱そうに溜息をつけば、あっという間に握っていた紙切れを抜き取られる。
体調が悪いのでしたら、私が代わりに買い出しに行ってきます。藤堂さんは休んでいてください。
傍に立ち止まっていた人物が、紙切れと共に早足でその場を立ち去る足音だけが藤堂の頭と廊下に響く。
ようやく藤堂が重い瞼を僅かに上げるも、そこには既に誰もいない。
「…行ってくれんのはありがてぇけど、…どこの組の奴なんだ…?」
寝惚けた状態で会話していたため、会話していた相手がわからない。
その相手が誰だったのか思い出そうとするものの、襲ってくる睡魔に負けた藤堂はすぐにまた目を閉じた。
「…ここで何をしている、平助。」
それから間もなくして、藤堂が再び閉じていた目を開けば、そこには自分の顔を見下ろしている斎藤の姿があった。
「は、一君…!?」
「…その様子では、まだ買い出しに行っていないようだな。」
少しの間でも眠れたためか先ほどよりは気分は良いものの、無理に作った笑顔が引き攣る。
そんな中、ふと自分の視界の端に映った影に気がついた藤堂は、勢い良く体を起き上がらせた。
「…洗濯物?」
いつからあったのか、取り込まれた物らしき洗濯物が大量に入った籠が自分の隣に置かれている。
「それは確か、北上が取り込んでいた物のはずだ。」
「…清虎が?」
「ああ。…そう言えば、先ほどから北上の姿が見えぬのだが。」
斎藤の言葉を聞く内に、元から悪い藤堂の顔色がより一層青くなっていく。
…自分の代わりに買い出しに行かせてしまった人物は、まさか。
「清虎━━━━ッ!?」
思わず頭を抱えた藤堂の絶叫が、屯所に木霊するのだった。
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