打てど手折れぬ対抗意識


『…満身創痍…。』

やっとの事で汲み出した井戸水に手拭いを浸し、道場の床に打ちつけたおかげでじわじわと痛む頬に押しつける。
そのまま力が抜けた様に井戸の傍に座り込むと、先ほどまで木刀を掴んでいた手のひらを睨みつけた。

惨敗。

沖田に徹底的に打ちのめされた。
体も、精神も、私の持っている物のほとんどを彼は捻り潰した。

『…通用しない、か。』

私は今まで、自分の力の強さに頼って生きてきたが、それだけでは駄目だった。
沖田よりも力は圧倒的に強いはずなのに、私は何もできなかった。
彼は自分の劣っている部分を他のものでカバーできたのに対し、私は力以外に何も持っていなかったからだ。
沖田よりも劣っている部分が数えきれないほどあるのに、私は力にしか頼る事ができなかった。

『…痛い…。』

頬に押しつけていた手拭いを離し、そっと指先で痛む部位に触れてみれば、僅かにヒリヒリとした刺激が走る。
少し擦りむけているらしい。

沖田に刻み込まれた体の痛みは、その数だけの死を意味している。
なんだかんだでどうにかなると心の中で甘く考えていた私に、それだけではこの時代を生きていけないと身をもって教えられたのだ。
仮にも新選組の人間なのだ、この激動の時代を生き抜くには今の私では命がいくつあっても足りないだろう。

ぬるくなってしまった手拭いを再び水の中に浸す。

新選組で生きていく厳しさから目を逸らしていた事も大問題だが、今の私にはもう一つ違う問題が起きていた。

『…あの金平糖男め、顔に傷が残ったらどうするの…。』

手拭いを思い切り握りしめれば、地面にボタボタと水滴が落ちる。

悔しい。

新選組は人斬り集団で男所帯、私の扱いも男なのだから仕方がないが、私も一応は女なのだし正直に言うと先ほどの試合はとても嫌なものだった。
ここまで、体と心を同時に痛めつけられた事はない。
相手に打ちのめされるだけで何もやり返す事ができないだなんて、これほど屈辱的な気持ちはないと思う。
しかし、どんなに悔しくても沖田に反論できるものが私にはないというのが特に辛い。

『…今日から特訓だ、特訓。』

沖田を負かす事はさすがに無理だとしても、あの茶髪相手にまだまともな試合ができるぐらいには絶対に成長してやる。
そう意気込みながら、痣だらけの腕も手拭いで冷やそうと袖をまくったところで、

「…北上君…?」

いつの間にか、紫の瞳を大きく見開いた山崎烝が目の前に立っていた。

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