朝餉と布と、洗濯と

膳の上に食器が置かれ、焼き魚や味噌汁などの食欲を刺激する香りが大広間に漂う。

普段ならば和やかかつ賑やかな朝食の時間なのだが、今朝の大広間には張り詰めた空気が漂っていた。
新選組幹部達はそれぞれ食事に手をつけているものの、視線はある一点へと注がれる。

『今日も美味しそうですね。』

そこには、緊張気味に箸を握る雪村千鶴の隣に座る北上清虎の姿があった。



『一緒に朝食、ですか。』

畳の上で胡座をかいていた北上清虎は、自室の前に立つ原田と永倉に聞き返した。

「そうそう、清虎は新選組に入ってまだ間もないだろ?色々と話したい事もあるし、一緒に食わねぇか?」

『……………………。』

急な提案に警戒したのか、北上からの疑いの視線に原田と永倉は一瞬息を詰まらせたものの、いいから来いと少々強引に北上の腕を掴み食事の場である広間へと歩きだす。

昨日から始まった北上清虎についての調査は未だにまともな情報も掴めず、夜に行われた押し込みについては謎の終幕を遂げるなど、ますます北上の謎は深まっていた。
そのため、北上を食事≠フ名目で広間に呼び出し情報を聞き出す事となり、原田と永倉に北上が引きずられてきて今に至るのだ。



「北上さん、食べないんですか?」

食事に手をつけずにいる北上を心配してか、雪村が声をかけた。

『すみません、目上の方より先に食べるのは失礼かと思って。』

「そんな事、お前は気にしなくていいんだよ。ほら、冷める前に食えって。」

北上を雪村と挟む様にして座る原田が彼の肩に手を置き早く食べるように促せば、北上は膳の前に手を合わせ、

『…では、遠慮なく。いただきます。』

箸を手に取り、もう片方の手で口布を下ろした。

その場にいた者の動きが固まり、北上が味噌汁を啜る音だけが響く。

『…うん、やはり美味。でも、雪村の坊っちゃんとは少し味付けが違いますね。』

「えっ!?えっと、そのお味噌汁は斎藤さんが…。」

『へぇ、斎藤組長も料理がお得意なんですね?羨ましい限りです。』

隣に座る雪村に何事もなく話しかけ、今度は焼き魚をつつく北上。
それを見て手に持った箸を取り落としそうになりながらも藤堂が口を開く。

「なぁ、清虎?…その、口布…?」

『ん?…口布がなにか?』

「いやいや、下ろして良かったのかよ、それ!?」

その場にいる北上以外の人間が持っている疑問がそれだった。
彼は、一度も自分達の目の前で口布を下ろした事は無かった。
沖田や山崎がどんなに要求してもやらなかったそれを、こうもあっさりと目の前でやられたのだから驚かないわけがない。

『そりゃあ、口布は下ろすでしょう。どうやって口に物を運ぶんです?』

そう言って小首を傾げつつ口に漬物を運ぶ北上に、今度は永倉が声を上げる。

「でもよ、お前、顔を隠すのは醜いから〜とか昨日言ってただろ!?」

『ああ、やはり昨日部屋の外にいたのは永倉組長達でしたか。』

思わず口を滑らした永倉とその言葉に勢い良く頷いていた藤堂の顔がひきつり、原田に続いて土方が溜息をついた。
まさか会話を全て聞かれていたとは思ってもみなかった雪村はその様子を見て目を見開き、手に持った小鉢と箸を膳に置いて申し訳なさそうに北上の顔を見上げた。

「ごめんなさい北上さん!私…。」

『あはは、別に気にしてませんよ。聞かれても困る様な話なんてしてませんし。』

「でも…。」

『困ったなぁ、坊っちゃんは優しいですね。本当に大丈夫ですよ。』

落ち込む雪村の肩に軽く手を置き声をかける北上。
普段その顔はほとんど隠されているためか、わずかに弧を描く口元がより強調されて見えると雪村を含め新選組幹部達は思ったのだった。

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