度胸試しと神隠し


激しく脈打つ心臓。

『…心臓に悪いよ、本当に…。』

酷く乱れた布団の上に力なくへたりこみ、美涼は息を吐いた。

沖田が言うには、あの三人組の隊士達は私に度胸試し≠仕掛けに来たらしい。
すぐに逃げてくれたから良かったが、スマートフォンのフラッシュで怯んでくれなかったらとんでもない事になるところだった。
まあ、現代人にだって暗闇の状態で目の前にフラッシュをたいたら酷い有り様になるし、この時代には電気なんてないんだからあの隊士達にはかなりの刺激だっただろう。
とりあえず、相手が逃げてくれたおかげで未来の道具をウェストポーチに押し込んで部屋の隅に放り投げる事に成功したのは良かった。

『…それにしたって、幽霊はないよねぇ…。』

土方達が面倒だったのか呆れたのかは知らないが、私と隊士達の証言の食い違いの原因は幽霊の仕業≠ニいうのに深く追求しなかったのは本当に助かった。
いくらなんでも無理があるのは自分が一番わかっていたが、隊士達がそう思い込んでしまったのだからそれに合わせるしか言い訳が思いつかなかったし。
明らかに幹部のほとんどが怪しんでいたが仕方がないだろう。
でも、何はともあれ未来の道具を死守できたのだから良しとしよう。
次の目標はいらない道具をいつ処分するかだが、それはまた後日にしておこうか。
大きく伸びをして布団に仰向けに倒れ込めば、無意識に瞼が重くなる。
明日から新選組での仕事と監視される生活が始まるし、もう夜更けなのだから早く寝てしまおう。
寝不足でヘマなんかすれば鬼副長の鉄拳が飛んでくるのが予想できる。
あるいは山南先生のありがたいお説教だ。
それと、どうせ朝一で私の顔を覗きに新選組一番組組長様がこの部屋に来るだろうから、袈裟を被ったまま寝るつもりである。

『…にしても、どうしようかなコレ。』

懐からスマートフォンを手に取りアルバムを開けば、カメラフラッシュによる目潰しの犠牲となった隊士の顔が並ぶ。
…どれもこれも壮絶な顔をしていた。

『面白いから待ち受けにしとこ。』

どんな手を使ったにしても、私は先輩隊士を返り討ちにしたのだから度胸試し≠ヘ合格でいいんじゃないだろうか。
個人的には満点をあげるところだ。
スマートフォンの画面に設定された隊士の顔に若干吹き出しつつ、美涼は布団に潜り込んだ。


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