探られる者と迷走者達
部屋の中に耳を傾けていた藤堂、原田、永倉の三人は顔を見合わせていた。
「新八っつぁん、今の聞いたか?」
「本当に変わり者だよなぁ、清虎の奴…。」
「…言ってる事が本当なのかも疑わしいよな。」
旅をしていたのは散歩の延長
自分の出身は忘れてしまった
顔を隠すのは自分の顔が醜いから
腰につけた入れ物は貰い物
部屋の中から聞こえてくる会話の内容に三人は頭を悩ませていた。
予想以上に北上は雪村の質問に反応を示すところは良かったのだが、返ってくる内容が問題だった。
独特の喋り方や雰囲気もあって北上は本気で言っているのか、ただはぐらかしているだけなのか見当が付かないのだ。
「……他にも何か方法を考えないと駄目みてぇだな…。」
原田が眉を下げれば、雪村自身の仕事があるためそこでその場はお開きになったのか、部屋から雪村が退室する事となった。
雪村曰く、
北上は悪い人には感じず、逆に新選組の事を考えてくれている様だった。
との意見を言われたが、それだけで問題が解決するはずもない。
そのまま大広間に戻ってきた幹部達三人は再び頭を悩ませる。
「やっぱりよぉ、俺達が直接清虎に聞きに行けばいいんじゃねぇか?」
永倉が頬杖をつきながらぼそりと呟けば、その背中を原田が軽く肘で小突いた。
「それじゃ意味ないだろうが。清虎がもし間者だったりしたらどうすんだ。」
「でもよ、…間者とかじゃねぇと思うんだよなぁ、清虎の奴は。」
「…俺も。間者だったらあんな悪目立ちする様な事とかしないだろうしさ。」
永倉の意見に藤堂が頷き、原田も特に否定する事もなく黙り込んでしまった。
新選組の幹部に媚びを売ったり特に目立つわけでもなく、それでいて記憶に強く残る様な微妙な立場を貫く男。
新選組内部の情報を聞き出そうとする姿勢もない。
間者の人間がとる行動ではないのである。
ただ、北上が間者ではない証拠がないため簡単に信用するわけにもいかなかった。
「考え過ぎて頭が痛てぇよ、酒でも飲みたい気分だぜ。」
永倉は頭をガシガシと掻きながら藤堂に視線をよこせば、自分もだと頷く藤堂の動きが固まった。
「そうだ!それだよ新八っつぁん!!」
大声をあげた藤堂に目を見開く永倉に対し、原田は納得した表情で口を開いた。
「たしかに、清虎に酒を飲ませれば色々とわかるかもな。前の文の件だってあるんだしよ。」
北上を酒に酔わせて情報を聞き出す
かなり単純な方法ながらも事の発端である文の件もあり、本音や思考がわかりにくい北上から情報を聞き出すには一番手っ取り早いと考えたのだ。
「だが、今夜は無理だぞ?あれ≠ェあるんだし。」
永倉が苦笑いで二人に視線を向ければ、藤堂と原田は思い当たる事があるのか顔を見合わせた。
「あー…、あれ≠ゥぁ。大丈夫かな、清虎。…失敗した場合どうすんだ?」
「失敗したら入隊できねぇだろ。…清虎が屯所を歩き回らなければやらずに済んだんだが…。」
入隊ができなければ、清虎が羅刹の件に関わった事もあり選択は最悪の結果しかない。
原田の言葉に藤堂は頭を抱えた。
「とりあえず、今夜のあれ≠フ結果しだいじゃねぇか?」
永倉の呟きに藤堂と原田の二人は頷き、今夜北上清虎に起こるであろうあれ≠考えて溜息をついたのだった。
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