探られる者と迷走者達

『ほう、色々と仕事があるんですね。雪村の坊っちゃんだけでは大変だったでしょう?』

目の前にある座布団の上に姿勢良く座り、私の話を聞いている北上さんが口を開いた。

「そんな事ないです。手伝ってくださる隊士の方もいるので…。」

原田さん達に清虎も当分はお前と似た立場だから小姓の仕事を教えてやってくれ≠ニ頼まれた私は、北上さんに私が普段している事を説明していた。
何かあっても部屋の近くにいるから大丈夫だと言われているし、北上さんは普通に私の話を聞いてくれているので問題も無い。
説明と言っても、私のしている事は炊事洗濯、お裁縫、ぐらいしか無いのだから仕事と言えるのか不安なのだけど。

『それにしたって毎日は辛いでしょうに。できる限り手伝いたいのですが、私にできるのは掃除、洗濯ぐらいでしょう。』

北上さんが困った様子で腕を組みながら小首を傾げた。

「あっ!男の方ですし、お料理やお裁縫は苦手でしたか?」

『…え?』

考えこんでいた北上さんが少し目を見開いて私の顔を見た瞬間、部屋の外から僅かにガタリと音が聞こえて気がついた。
男の方ですし
なんて言ったら私が男じゃないみたいだ。
背中に冷や汗がつたう。

「…わ、私も最初はお裁縫が苦手でしたから…。」

少し無理があるかと思いながら言葉を付け足せば、北上さんはへらりと笑いながら答える。

『そりゃあ、坊っちゃんに比べたら料理の腕は劣るでしょうけど、私は家事全般は一応できますよ。』

…良かった、怪しまれてない。
外の原田さん達にも気づいてはいないみたい。

『ただ、私はまだ新選組に入ったばかり。私が勝手場に立って作った物なんて、隊士の方が安心して食事なんてできないでしょう。』

「え!?そんなことないです!!」

『坊っちゃんにそう言っていただけるのは嬉しいですが、隊士の方はやはり気にするでしょうから。当分は掃除や洗濯だけにした方が無難ですよ。』

頭に被った袈裟を弄りながら目を細める北上さん。
私には彼が酷い人には見えないけれど、確かに言われてみればその通りかもしれない。
私も最初は幹部の方々に警戒されていたのだし。

「…そうですね。じゃあ、掃除や洗濯などをお願いします。あっ、無理はしないで下さいね?私も手伝いますから。」

『はい、ありがとうございます。…ところで、坊っちゃんはいつからここで小姓を?』

北上さんが笑顔で私に問いかける。

「まだひと月も経ってません。師走からですから。あの、北上さんはいつから旅をしていたんですか?」

『…私ですか?』

私の質問に、悩む様子で彼は顎に手を当て呟く。

『…一年前、…の散歩の延長ですかね。』

「…お散歩?」

『散歩してて、気がついたら旅をしてました。おかしな話ですがね。』

笑いながら答える北上さん。
お散歩をしていたら旅に…?
どういう事なんだろう。

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