探られる者と迷走者達


昼下がりの新選組屯所。

捕物が終わりを告げ、再び落ち着きを取り戻し始めたその場所に、とある一室へと聞き耳を立てる三人の男達がいた。

「なぁ、左之さん。本当に大丈夫なのか?」

「平助、心配なのはわかるが清虎が千鶴の事を気に入ってるみたいだって言ったのはお前だろうが。」

「安心しろよ、もし千鶴ちゃんに何かあったら俺が何とかしてやるって!」

「…安心できねぇし声がでけぇよ、新八っつぁん。」

小声で一通り話し終わり、再び壁に耳を当て部屋の中に聞き耳を立てる三人。
なぜ、藤堂、原田、永倉の三人の新選組幹部がこの様な行動をしているのか。
藤堂は数時間前に起こった事の発端を思い出しながら溜息をついた。


会議の結果、北上清虎はすぐに平隊士として加入させず、しばらくは雪村千鶴と同じ小姓の様な立場に置いて観察をする事となった。
その理由は主に北上清虎に関しての情報≠ェあまりにも少ないため隊士として取り込む事に不安要素が多くあり、羅刹の存在を知られたからには尚更彼の行動を制限しなければいけなかったからだ。

しかし、この処置には問題がある。

まず、同じ様な立場として雪村千鶴がいるのだが、新選組は彼女に男装をさせて保護している。
北上が彼女と同じ立場になれば必然的に二人の接触が多くなり、雪村が女性だと感づかれる可能性があった。
しかし、北上の情報を探りたい新選組にとって、逆にその雪村千鶴≠使わない手は無かった。
北上が雪村千鶴にかなり友好的に接しているのは行動を見ていて明らかだったからだ。
だからと言って雪村だけに任せるわけにもいかない。
よって、北上と比較的に友好かつ会話の回数の多い人材を集めた結果が藤堂、原田、永倉だったのである。

そして三人が情報を探り出す方法を考え出した結果、まずは雪村に北上から情報を聞き出してもらう事になり、その作戦が実行されているのだ。

雪村に伝えてあるのは

北上に小姓としての仕事の大まかな説明をしてほしい

交友を深めるためにも、北上とできるだけ会話でもしてみたらどうか

だけである。

良くも悪くも素直な性格の雪村に本当の事を言えば、緊張が顔に出てしまい相手に感づかれるだろうという意見からだった。
そして、三人の内の一人が雪村達がいる部屋の様子を窺う事にはなっていたのだが、心配だからと結局全員が部屋の壁に耳を押し付ける結果になってしまったのだ。


これでは逆に自分達の気配に気づかれているのではないかと不安になりながらも自分から引くこともできず、藤堂は部屋の中の会話に耳を傾けるのだった。

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