互いに言えない互いの秘密
「北上君の入隊が決まったのは良いのだが…。」
局長の近藤をはじめ新選組幹部達は、大広間に集まり、頭を悩ませていた。
不逞浪士でもない人間を殺すのはできる限り避けたかったため、北上清虎を新選組に入隊させたのは良いものの。
「北上君を斬らずに済んだのは本当に良かったが、この後どうするかが問題だね。」
井上が困った様に眉を下げる。
問題は入隊させた男の所属先であった。
「僕の組はどうかな?仲良くやっていけると思うんだけど。」
「おお!本当か、総司?」
にこやかに言い放った沖田の発言に幹部達は目を見開き、近藤は目を輝かせたが土方がそれを遮った。
「総司、てめぇはあわよくば北上を斬る魂胆だろうが!一番組には入れられねぇよ。」
やはりそういう事かと沖田以外の幹部達はため息をついたが、沖田の次に名乗りを上げる者がいた。
「なぁ、土方さん。俺のところはどうだ?特に問題もないだろうし。」
「二番組?大丈夫なのか、新八っつぁん。」
「大丈夫だって平助!それに清虎だってそんなに悪い奴じゃねぇぞ?」
「それは俺だって知ってるけどさ…。」
永倉と藤堂のやりとりを見ていた原田は、勢い良く自分の膝を叩き話し出した。
「思い出した!清虎の奴、新八の事になると急に態度が変わるんだ!」
「…態度がなんだってんだ?元からあいつの態度は最悪だろうが。」
土方がため息混じりに原田に聞き返す。
「…あー、いや、そういう事じゃなくてだな。それはもう目の色輝かせて新八のことを褒めちぎって、まるで別人でさ。」
「…北上が、か。」
「ああ、永倉組長様だとかそれはもうすごかったんだぜ?」
「それは俺にも心当たりがある。捕物の際、北上に新八の事を尋ねられた。」
全員の視線が斎藤に向けられる。
「その時はすでに捕物に向かった後だと伝えたのだが、剣の腕も学もある方だと聞いているので会ってみたかった≠ニ返された。」
「清虎が!?…駄目だ、全然想像できねぇ…。」
藤堂が頭を抱えた。
鬼の副長を相手に軽口をたたき、感情や本心を他人に見せない様な男が、そんな行動をとっているとは誰も考えてはいなかった。
そして、
「…なんで、よりにもよって新八っつぁんなんだ?」
「平助、それはどういう意味だ…?」
「なんか、清虎の新八っつぁんの情報は間違ってないけど間違えてるっていうかさ…。」
なぜそれが永倉なのかという疑問も全員に少なからずあるのだった。
思わずそれを口に出した藤堂の首に永倉の腕が回され、それを宥める原田の光景を横目に山南は眼鏡を押し上げた。
「…やはり、北上君も当分は雪村君と同じ小姓の様な立場にしておいた方がよいでしょう。」
北上清虎≠ニいう男について、情報があまりにも少なすぎた。
何らかの目的を持って旅をしていた事、胡蝶蓮≠ニいう名の野太刀に執着を持っている事ぐらいしか情報はなく、出身や年齢もはっきりしていない。
ましてや素顔も見れてはいないのだ。
「彼の証言が本当だという保証もありませんし、まだ間者の疑いもあります。様子を見てからでも遅くはありません。」
山南の言葉に土方と近藤が頷き、その他の幹部達も静かに頷いたのだった。
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