揺らぐ心、走る蝶


吹き荒れる風。

私の命を奪おうとしていた者達が、吹き飛ばされていく。

今、私は何をした?

ありえない。

…ただ、刀を抜いただけのはずなのに。

体が震える。

手にした刀は、妖しく鈍色の光を反射している。

何もかも、おかしい。

なんで、この刀は錆びもしていないんだ。

風が止み、砂埃が舞う。

…訳がわからない。

衝撃、安堵感、恐怖などの色々な感情に体から力が抜けた。
その拍子に地面に刺した胡蝶蓮の刃
に、自分の顔が映る。

…確実に、私の何かが変わってしまっ
た。

自分の中で何かが変化したのはわかるのに、何が変化したのかはわからない。
一体、何が起きたのか、起こるのか。
…恐い、恐くて恐くて堪らない。
しゃがみ込む私の背後から、男の声が聞こえる。
…唯一の救いは、彼を守る事ができた事だろうか。

その後、私達の元へ駆けつけた新選組幹部達が色々と声をかけてくれた。
心配してくれたのだろうけれど、流石に私の恐れている事を打ち明ける事なんてできない。
…やっぱり、この場、この時代は、私がいるべき場所ではないと改めて感じた。
幹部達が、先ほどの抜刀の件はあえて詳しくは触れないでいてくれたのも、本当に助かった。
私自身が説明が欲しいところであるし、心境的にも、辛い。
彼らの気遣いや励ましに、だいぶマシにはなったが不安や恐れが完全に拭える事はなかった。
しかし、これ以上、彼らに迷惑をかけたくない。
できる限り、普通に振る舞った。
だが、悪い事だけ起きたわけじゃない。
私の背後にいた男、監察方の山崎烝を助ける事ができたし、何よりも寿命が伸びた。
浪士達の事もあるが、主に沖田の魔の手からだ。
正直に言うと、沖田の言葉を聞いた瞬間にガッツポーズをしそうになった。
…今日は≠フ部分が腑に落ちないけど。
それと、北上清虎≠フ正体を知っていた浪士の件。
彼はあの後、新選組隊士に追い詰められて自刃したらしかった。
…罪悪感はあるが、私も死ぬわけにはいかなかった。
死にたくないのは、お互いに同じだっただろうし。
北上清虎の秘密は、誰にも知られていない。
明日からは、また北上美涼≠ニして旅を再開できるだろう。
元いた時代、私のいるべき時代へ帰るための旅を。

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