最悪の一夜、再び


…おかしい。

いや、これといった確証はないが。

浪士達の隠し武器庫らしい呉服屋が、すぐ目の前に見えるところまで来た私達は、足を止めていた。
先発部隊として出た永倉や原田達は、呉服屋の裏の方を包囲しているらしいのだが。

『…妙に、静かじゃありませんか?』

夜なのだから、静かなのはあたり前なのだが。
この静けさに、どこか違和感を感じてしまう。

「…やっぱり、君もそう思う?」

沖田は口元に笑みを浮かべてはいるが、細められたその目はどこか炯々と光り、土方は前方を見て睨む。

何かが息を潜めている様な感覚が、この場の空気に流れている。

新選組隊士達がゆっくりと刀に手をかけ歩く。

…今さらだが、本当にこの呉服屋は浪士の武器庫なのだろうか。
いや、そうじゃないと困るのは私なのだが。
しかし、死んだ男の覚書の情報は本物なのかは正直なところわからないのだ。
新選組が調べたという情報も、目星をつけたというだけのものだったのだし。

呉服屋の目の前に来てみれば、外見は古いがそれなりに立派な店。
…なのだが、少々こじんまりとした印象を受ける。
けっして大きな建物ではない。
土方達を見れば、裏の方にいる隊士達とも連絡を取り合ったのか、店の中に押し入るらしい。

邪魔にならない様、呉服屋から離れた私は向かいの建物の壁に寄りかかる。
……めちゃくちゃ古いな、この店。
もう使われてないのかな。
でも、なぜか入口の玄関扉が動いてる跡があるんだよね。
………まさか。

『……こっちが、お目当ての場所だったりするのか、なッ!?うわあッ!!!!』

「…ぐがっ!!」

自分の真横にある古い扉が通りの方に吹っ飛び、中から浪士が。
思わずあの浪士との取っ組み合いを思い出してストレートに殴ってしまった。
思い切り殴っちゃったよ、どうしよう。
浪士は地面を数回跳ねて転がった後にぐったりしている。
うわ、またこのパターンか。
…死んでないよね?

あっという間に、店の中からバタバタと刀を構えて出てくる浪士達。

「なぜ、ここに新選組がッ!?」

「おい、話が違うではないか!!」

「あいつは何をしているのだ!」

「おのれ、裏切りおったな!」

ごめんなさい、浪士達。
その人、もういません。
…あの文からして、彼は貴方達を金で売ろうとしてたから、生きてたにしてもこの結果には変わりなかっただろうけれど。
新選組に教えた場所と位置が少し違うのは奴なりの余裕というか僅かな情けというか、ハンデのつもりだったのだろうか。

「…北上ッ!早くそこから離れろ!!」

土方の声で気がついた。
私は今、新選組隊士達から離れてて、抜刀した浪士達の真横にいて、浅葱の羽織りを着てて…。

「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」

「貴様、新選組だな!貴様がやったのか!?」

浪士の一人を殴り飛ばした。

「新選組め、仲間の敵!!」

浪士の何人かが私に迫る。
ずりずりと後ずされば、

「何してるのさ!!早く離れて!」

沖田が抜刀した浪士を斬りつけながらこちらに向かって大きく叫ぶ。
それを皮切りに私が足を動かせば、男達の怒号と共に刀と刀がぶつかり合う金属音がいくつも鳴り響いた。

人生最悪の一夜、再び。



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