最悪の一夜、再び

なんだかんだで例の呉服屋に向かっているわけだが。

『あだだだだ、痛てぇ。袈裟が伸びるのでやめて下さい、副長殿。』

「何をガキみてぇに不貞腐れてんだ、お前は。」

『ガキですか。そうですね、副長殿よりはまだまだ若いです。』

「…本当にてめぇはムカつく野郎だな!」

あはあは笑う沖田、土方の怒りの声、後ろをついて来る隊士達からの視線。
自分の着ている浅葱の羽織。
なにもかもが今、私の不機嫌の原因だ。
浅葱色は、武士が切腹する時の装束の色だが私はまだ死ぬつもりはない。
京都観光の貸し衣装とは違うのだ。
さっさと脱ぎ捨てたい。
死ぬつもりはなくとも、捕物中に死ぬかもしれない。
……捕物が終わっても沖田がいるけど。
それと、新選組屯所まで行ってるのに永倉新八に遭遇してない。
広間に向かっている時に斉藤に質問したら、永倉は先発部隊として呉服屋にもう行ってしまっているらしかった。
残念である。
剣の腕も学もあるお方だと聞いていたので会ってみたかった
と言ったら斎藤がなんとも言えない表情をしてたけど。
なぜだ。

『……ッ!』

考え事をしていれば、急に沖田が私の腕を掴んで足を止めさせた。
いきなりすぎてつんのめる。
何をするんだと沖田を見れば、

「もうそろそろ、例の呉服屋だから今のうちに言っておくけど、僕達の邪魔になる様だったらすぐに斬るから。」

『…………。』

「君、刀を抜かないんでしょ?隠れるなりして自分の事は自分で守りなよ。」

『…わかりました。』

先程まで笑っていた人間とは思えない様な男の声。
この男だけではない。
私以外の浅葱色は皆、静かに殺気立っている。

「……まあ、土方さん達から聞いた君の話が本当だったら大丈夫なんだろうけど。」

沖田がにっこり、でもあまり心地の良くない笑みを見せて再び歩き出せば、土方に続き他の隊士達も歩き出す。
…最後の言葉の意味がよくわからん。
全然大丈夫じゃないんだけど。
気になるけど、この緊張した空気で沖田に声をかけるわけにもいかず。
自分も黙って土方と沖田の後ろを早足でついて歩いた。

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