翡翠の瞳の殺害予告


刀を男の額に向かって振り下ろし、

「……君って、何を考えてるの?」

ギリギリのところで手を止めた。

男は微動だにしなかった。
やはり、自分から修羅場に慣れていると言う程度には僕の考えを見切っていたのか。
男は、感情の読み取れない声で話し出す。

『理由はお話できませんが、私はこの刀を抜けないのです。だから、憧れはありますが、私は新選組に入る資格がない。』

…刀を抜けない?

『私を殺したいのはわかります。しかし、今私を切り伏せては貴方も面倒だ。』

「…わかってるよ、そんな事。」

『私と新選組は今日一日だけの付き合いとなりましょう。そんなに殺したいのなら、今夜の捕物の終わった後にした方がよろしいかと。』

僕の顔を見上げながら、小首をかしげる男。
僅かに見えるその瞳は、揺らぐ事がない。
一体、何を考えているんだろう。

「…わかった。お望み通り今日の捕物が終わったらにしてあげる。僕も面倒な事は御免だし。」

刀を鞘に戻せば、男がけらけらと笑い出す。

『ははは、見逃す事はないんですね?貴方は鬼副長よりも鬼みたいだ。』

土方さんなんかと比べられたくないかな。

「当たり前じゃない。僕、君の事嫌いだし。」

『ほう、気が合いますね。私も貴方の事が嫌いだ。』

…僕に向かってキッパリと言い放ってきた。

「…君って、本当にいい度胸してるよね。」

『今日一日だけの付き合いなのだし、言えるだけ言っておかないと後悔しますからね。』

…本当に、どうしようもなく苛つく男。

踵を返し、部屋から立ち去ろうと襖に手をかける。

『おや、沖田組長。』

「…何?やっぱり今斬られたいとか?」

男が僕の顔に向かって指を向ける。

『いや、今気がついたんですが。貴方の髪型は近藤局長殿とお揃いなのですか?』

「…それが、どうかしたの?」

『いえ、よくお似合いだと思いまして。ただそれだけです。すみません、わざわざ呼び止めて。』

「……。」

特に返答もせずに、襖を閉めて歩き出す。
嫌いと言った相手を褒めるって、彼は何がしたいんだろう。

どうしようもなく苛つくし、気に食わないけど、考えが掴めない、変わった身なりの面白い男。

「…北上清虎か。」

…すぐに殺しちゃうのはもったいない、かもしれない。




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