翡翠の瞳の殺害予告
勝手に部屋の中に入ってきた男。
『お言葉ですが、笑いたくなければ笑わなくても結構ですよ。こちらが見ていて顔が疲れますので。』
新選組一番組組長沖田総司だそうで。
「…何を言ってるのかな?僕は君との会話が楽しいだけなんだけどなぁ。」
まだ愛想笑いを続ける沖田。
『そんな殺気立った目で言われても、信憑性がないのですが。』
翡翠色の瞳が、すっと細められた。
新選組の天才剣士。
組織のためを第一に行動する男。
そんな男が、北上清虎≠フ新選組への行いについて聞いたら何を考えるかなんて予想できる。
『さぞかし、私を斬り殺したいのでしょうね。』
私を快く思う新選組の人間なんていないのは当たり前なのだから。
「…ふぅん。よくわかってるじゃない。」
『…慣れているものですから。』
人の目線や話し方で、相手がどんな気分か大体は理解できるよね。
こいつの場合はすごくわかりやすかった。
目が笑ってないんだから。
初対面から怖すぎ。
「へぇー、すごいね。慣れてるんだ?」
…あんまりすごくないと思うが。
すっと沖田が立ち上がる。
「…ねぇ、その刀抜いてみてよ。」
…胡蝶蓮?
いきなり抜けとか意味がわからん。
『…………ッ!』
沖田が刀の鯉口を切る。
ちょっと待て、悪いけど胡蝶蓮は抜きたくないというか、抜けない。
丁重にお断りしたい。
だけど、声かけようにも怖くてかけられないわ。
「…ほら、早く。」
沖田が鯉口を切った刀の柄を掴む。
『…できません。』
私の返答に、沖田の瞳がぎらりと光る。
一気に刀が抜かれ、私の目に鈍色の光が映る。
その光がそのまま私の体を切り裂こうと頭上に振り下ろされるのがわかる。
恐怖に体が動かないが、ただ一つだけわかることはある。
私はまだ、殺される事はないだろう。
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