抜け出せぬ誤想

『…なんてこったい。』

新選組の屯所の一室に私はいた。
そして絶望の中にいる。
絶望している原因はこの状況にもあるが、主に数分前にさかのぼる。

私が新選組に連行されている途中。
少しでも弁解しておこうと浪士に襲われた経緯をポツポツ隊士達に語りつつ、新選組の屯所の門を嬉しいような悲しいような複雑な心境でくぐったあたりで藤堂が原田と私に声をかけた。

「とりあえず災難だったなぁ、お前。あ、俺、今から土方さんとかに報告してくるから。もう逃げるなよ、清虎?」

…清虎?

『あの、名前…。』

「あ、悪い。もしかしてこう呼ばれるの嫌だったか?」

『いえ、そういうのは気にしない方ですけど。その…。』

「じゃあ、それでいいじゃん。とりあえず、あと頼んだぜ左之さん!」

「おう、任せろ。」

私の下の名前は清虎じゃないんですけど…。
そう切り出すタイミングを掴めず、藤堂はどこかに走り去ってしまった。
清虎ってなんですかね。
まさか藤堂が即席で作ったニックネームか何かか?
ネーミングセンス無さすぎだろ。

『ほら、ぼさっとしてないで行くぞ、清虎?』

原田もニヤリと笑って私を呼ぶ。
いや、なんでお前も便乗してるんだよ。
藤堂のネーミングセンスにツッコミを入れるところでしょうよ。
…私のどこがどうなって清虎になったんだ?
藤堂のネーミングセンスの酷さに悩みながら縛られた手を引かれて歩けば、当たり前だが客間ではなくて空部屋に連れてこられた。
部屋の中に渋々入れば、原田は部屋の外に座り込む。

「しばらくここで待ってろ。もし何かあったら声かけてくれ。」

待ってろって何をでしょうかね。
これから何をされるか検討がつかない。
襖が閉められ、狭い部屋に一人。
襖の前から数歩移動し、部屋の中央あたりに座るというよりへたりこんだ。

何この状況。

やっぱり未来人だってばれてたりしてるとか?
いや、自分でも自覚はあるが変わった服装をしてるからか?
組長の股下をスライディングしたからか…、これは違うかな、うん。
やっぱり人殺しの件だよな。
しかし、人を殺したにしたって私は一般人だ。
必死に逃げたり転んだりと色々と間抜けなシーンを見てるんだから一般人だってわかってる…はずだ。
…浪士一人を殺してしまった一般人相手の対応にしては違うような気がする。
普通だったら待たせるとかじゃなくて、牢とかにぶち込まれるとかしてそうな気がするんだが。

とりあえず、あれは事故だったと証明できるものは何かないものか…。
…浪士の荷物。
希望は薄いが、もしかしたら何かあるかもしれない。
やらないよりはマシだろう。
縛られたままの手でゴソゴソと荷物を漁りだす。
すっからかんの財布、顔に巻いていたものの予備らしき手拭い、中途半端に中身が残っている水筒、かなり高価そうな煙管。
うわ、食いかけの饅頭…?
少し潰れてるし、これもう食べれないでしょ。
そんな色々とどうでもいい物の中に、唯一気になる物があった。
適当に、だが小さく畳まれて荷物の一番下に隠すように入れられていた二枚の紙。
一つは文、もう一つは覚書のようだった。
文を広げてみれば、この時代特有のミミズみたいな文字。
この時代に来て一年たったにしても、まだほとんど読めない。
ただ、入隊≠ニか希望≠ニか書いてあるし宛名に新選組≠フ文字があるから、あの浪士は新選組に入隊しようとしていた事はわかった。
ところで浪士の名前は何かと思い、文の最後を見た私は固まった。

『北上、…清虎…?』

ごめんなさい、藤堂組長。
貴方のネーミングセンスじゃなくて私自身の問題でした。

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