抜け出せぬ誤想

「北上を捕まえただと?」

京の治安が悪化するにつれて山積みとなった仕事を終わらせるべく、筆を走らせていた土方はその手を止めた。

「おう。俺達の巡察の帰りに清虎を追いかけてる左之さんに出くわしてさ。」

報告に来た藤堂が部屋に入る。
土方の前に座り、北上の事は原田から詳しく聞いたと苦笑いした。

「追いかけてた?なんでそんな事になってやがんだ。」

藤堂が頭をかく。

「あー…、なんか清虎が言うには浪士に追い剥ぎにあいそうになって喧嘩になったらしいんだよ。ちょうどそこに左之さんが居合わせたらしくてさ。走ってきた左之さんが怖かったから逃げた、とか言ってたぜ?」

「はぁ?」

意味がわからねぇ。
怖かったから逃げた?
自分が入隊を希望している集団が怖い?
何を考えているんだ北上は。

「変な奴だよなぁ。あとさ、本当は捕まえたっていうよりはアイツが仕方なく俺達について来たっていう方が正しいんだ。」

そこからの話は耳を疑うものだった。
原田と平助、そして平隊士数名がかかっても男一人を捕まえるのに手こずっただと?
包囲を切り抜けたにも関わらず、自分から捕まりに来たというのもおかしな話だ。
そして、

「そんな人の殺し方なんざ聞いた事ねぇ。何かの間違いじゃないのか?」

「それが本当なんだって!俺も最初は信じてなかったけどさ、アイツが曲げてへし折った板と浪士の背中の傷も実際に見たんだぜ?」

そこで部屋の外から声がかけられ、入室を許可すれば十番組の隊士から殺された浪士についての報告書を渡された。
浪士の体を貫いた板の刺さり方や傷の深さは普通の人間が短時間で行うには到底無理があるものに近かったが、浪士の二の腕には人の手で掴まれた跡が酷い痣になっていたらしい。
折れた板も人の手で掴んだ様な跡がついていたとある。
人間のできる所業ではないと言えるぐらいだが、報告書からして平助の言っている事は本当らしかった。

「…奴は今、どうしてるんだ。」

「空部屋にいるよ。逃げない様に左之さんが監視してる。」

「…北上に会う。近藤さんや山南さんにも声をかけてきてくれ。」

平助にそう言い残して空部屋に向かう。
…報告書の内容が本当なら、北上清虎という男は一体何者なのか。
聞いていた特徴からしても、かなりの大男なのだろうか。
浪士の殺し方から見て相当の手練れらしい。
あんなふざけた内容の文を渡してくるくらいだ、態度もでかくくるだろう。
空部屋の前に座り込んでいる原田に声をかけ、北上が部屋に居ることを確認して部屋の襖に手をかける。
この中に、どんな輩がいるというのか。
襖を開ければそこには、

「…何をしてやがんだ、てめぇは。」

畳の上でべったりとうつ伏せになっている、風変わりな細身の男がいた。

[ 12/70 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -